〜ねこまたさん参上!?の巻〜
「さて、今日からここがお前のうちだ」
いなりを拾ってきた俺はそのまま自分の住んでいる小さなボロアパートに連れて行った。
ボロいのだが1人で暮らすには十分の広さがあるし、なんといっても家賃が安いので俺は特に不満もなくここに住んでいる。
「……きたない」
「そんくらい我慢してくれ、中は……」
そこではっと気がつく。
男1人暮らしのアパート=きたない
これは基本公式である。もちろん例外もあるだろうが、うちはその基本にのっとっていた。
「ちょっ! ちょっとここで待っていてくれよな」
俺はいなりを入り口の前に置いて、一人部屋に入り中を見る。
ゴミは捨てていない、エロ本は散乱。食器は片付けてない。
人(?)が来ることを考えると明らかに汚いといえる部屋。
「こんなこと起こるなんて考えもしなかったからなー」
いざ片付けようとすると、あまりにも汚くて何から手をつければいいのかわからなくなる汚さ。
普通に動物を入れる分には気にならなかっただろうに、いなりは確かに動物要素を含んでいるが俺から言わせれば人間だ(人語も話すし)。
さあ一体どうしようか、俺が途方にくれていると、
「……中もきたない」
「おわっ!? おまっ!」
いつの間にかいなりが中に入ってきていた。
「ちょっと時間がたったから入ってきた」
「や、こーいうときは普通俺が「いいよ」って言ってから……」
「……多分、入る時間が違うだけ」
いなりが部屋を見渡した後言った。きっと、俺があのまま途方にくれ、結局あきらめてきたないまま中に入れると考えたのだろう。否定できない自分が嫌。
「大丈夫、私が片付ける……」
「え?」
突然何を言い出したかと思うと、袖口から突然はちまきを取り出し頭にぎゅっと締める。
本人は気合を入れてるつもりなのだろーが、顔は以前無表情のままなんで全くそんな風には見えない。
いなりさんはまずは大きいゴミをゴミ袋に集め始めた。
俺も手伝おうとしたが、「……ダメ」と断られた。何故かは全くわからない。
だから俺はせめてできることとしてエロ本隠しをすることにした。ばれないよう、ばれないようにと。
ちょっと、悲しくなった。
しばらくして。
ゴミ袋の中には結構なゴミがたまったが、それでも一向に片付く気配がない。
……つかこんなにゴミ屋敷だったのか、正直ショック。
「……ん、救援を呼ぶ」
「救援?」
またもや袖口から何かを取り出す。袖口にたくさん物を入れてるんだろうか。
ちなみに取り出したものは……鈴?
いなりは鈴をちりんちりんと鳴らす。ごくわずかな音だったが、あれで意味はあるのだろうか。誰にも聞こえないと思うが。
『どないしたんや、一体』
ふと、どこからともなく女声の関西弁が聞こえてきた。
辺りを見渡すがどこにも見当たらない。
『ここやここ、そこのあんちゃん』
ここって言われても……後ろを振り向いても誰もいない。
『だからぁ……』
俺が結局どこにいるかわからずあきらめて前を向いたときだった。
「ここやー!!」
「うわあああ!!」
なんと、突然俺の目の前に飛び上がるようにネコミミをつけた少女が現れたのだ。
もう俺心臓ばっくばく、飛び出るぐらいだったし。
「はぁっ! はぁっ! マジ驚いた!!」
「あっははは、おもろい顔やったでーあんちゃん」
ネコミミをつけた少女は涙目を浮かべながら笑っている。
こいつがいなりの呼んだ救援だろうか。
「ネコマタ……ふざけすぎ」
「すまんすまん、からかいがいがありそうだったんでなー」
この子の名前はネコマタというのか。確かにしっぽが2本あって、昔本で読んだ日本の妖怪の猫又の特徴をとらえている。でも、その可愛らしさは本で読んだものとは全然違っていた。
「ふーん……」
「なっなんだよ」
俺のことをじろじろ眺め回すネコマタ。
「これがいなりの新しい飼い主かーものごっつさえなそうな男やけど」
「悪かったな! そんな顔でよ!」
『確かに俺はさえないよ! じゃないとこんな生活送ってないっつーの!』とは、さすがに口ではいえなかった。なんか負けを認めるみたいだったから。
「ま、でもいなりが気に入ってるみたいやし。うちも付きおうてみんとわからんしなー」
「ネコマタ、うるさい……」
いなりが顔を赤らめてネコマタにチョップする。
その表情がすごく萌え……じゃない可愛いと思った。
てか、俺気に入られてたのか!
「えっちょっと、それは……」
「……掃除、手伝って」
「はいはい、まあそのために呼ばれたんやろ。しゃーないなー」
そのことの確認を取ろうとした途端、急に掃除が再開される。
言及されるのを恐れて逃げたんだろうか。
さすがに救援に呼ばれただけあって、ネコマタの行動はいなりよりテキパキしていた。
必要かどうか本人しかわからないものはちゃんと分けておいてくれたりとそこら辺もしっかりしていた。
ただ、いなりさんもいなりさんで頑張っていた。特に、あとは掃除機をかけるだけという状況にわざわざ箒を、しかも袖口から出したのはさすがだと思った。
……どうなってるんだあの袖口は。
「これで……」
「これで終わりやー!」
いなりの声をさえぎり、ネコマタが大きな声で掃除の終了を告げる。
確かに本当に俺の部屋かと疑問に思うくらい部屋は綺麗になっていた。
「おお! ありがとう2人とも!」
「ん……」
するといなりはちょっと嬉しそうな顔をした後、頭を俺の方へ向ける。
「ん? どうした」
「……」
いなりは何も言わないまま、そのまま頭を向けてじっとしている。
……いなりって一応動物でもあるんだよな、ということはこれは撫でろってことか?
疑問を感じつつも、俺はいなりの頭を撫でる。
「……(ふりふり)」
おお! しっぽがいつもより余計に動いてる。これはもしや嬉しいってことか!?
表情には出てないが喜んでいるのか!?
「あーええなあいなり、なああんちゃん。うちにもしてやー」
「あ、え、いや別に構わんが……」
ネコマタも頭を近づけてきたので俺はそのままもう片方の手でネコマタをなでる。
「あーやっぱこれいいわー」
「お前はどこの親父だ」
「撫でられるのは気持ちええねんって。いなりもそやろ?」
「……(こくん)」
ほーやっぱそういうとこは動物と一緒なんだな。
人間と動物の中間ってところか。
「ほな、うちはそろそろ飼い主のところに戻らな」
「ん、ネコマタは飼い主がいたのか」
「うん、ちょっと変やけど、とってもええ飼い主や」
ネコマタがこれ以上ないって笑顔で言うのを見て、よほどいい飼い主なんだろうなと思う。
できれば、一度会ってみたいかな。
「ほななーまた遊んでやー」
「色々と手伝ってくれてありがとなー」
「……ばいばい」
別れの挨拶をすると、ネコマタは窓から上の方へと飛び上がり見えなくなった。
「また会えるかな?」
「うん……きっとすぐ」
「すぐ? どうしてだ?」
「……ひみつ」
いなりは何かわかってるようだったが決して言おうとはしなかった。
「あーなんか腹減ってきたな。さーて、飯どうすっか? カップラーメンでいいか?」
「……(こくっ)」
ちょっと問い詰めようかとも思ったが、それよりも食欲の方を優先すべきだと俺の胃が告げたのでやめておく。
後ろをとててとついてくるいなりを横目で見ながら、自分以外の誰かがいる生活って結構いいなと思い始めていた。
つづく
☆おまけ☆
いなりさん特設ページがどこかにあります。
がんばって見つけてみよう!