初音ミク〜♪





「あー♪」

 うーん……、そこはレで歌ってみろ。

「あー♪↑」

 あ、いや。やっぱりシで。

「あー♪↓」
 
 いやいやいや、やっぱり違うような……。今度はミで。

「あー↑↑♪」

 違うな。じゃあ半音下げろ。

「あー↓♪!」

 そうでもないなー。今度は――

「マスター……」

 ん、なんだ?

「いい加減してくださいよー。正しい音で歌わせてくださいよー」

 それが分かれば苦労はしない。

「分からないんですか、マスター?」

 その通りだ。

「そんな平然と言い切らないでくださいよー。今までに音楽経験とかないんですか?」

 無いな。一番使える楽器はリコーダーだな。

「自慢になりませんよ」

 馬鹿な。カスタネットと言わなかっただけマシだと思え。

「もっと自慢になりません。使えるって言っても小学校レベルじゃないんですか?」

 むう、鋭いことを言う。

「音楽ソフトの経験は無いんですか?」

 自動作曲ツールをちょっとだけだな。

「あんまり役に立ちませんね」

 確かにその通りだな。
 先に言っておくが耳コピの経験も無い。

「……マスター……、何で私を……?」

 なんとなくだ。

「なんとなく、ですか……」

 うむ。
 ん?
 何をしている?

「実家に帰らせていただきます」

 待て待て、どこへ帰る気だ?

「止めないでください。このまま歌えないで一生を終えたくありません」

 だから待て。
 帰る場所などあるのか?
 一度派遣された場所から出たら、次の場所に身を処するのは至難の業だぞ。

「分かってます。けど……」

 まあまあ。
 別に卑猥な歌詞の歌わせようとしたわけではないだろう。

「それは、そうですけど……。どんな歌を歌わせようとしたんですか?

 『最終鬼畜全部声』

「歌ですかそれ!?」

 歌……というよりは音だな。発生源は人の声だから問題ないはずだ。

「ビートまりおさんの声は人間の音声領域超えてますよー。ボーカルOFF調整したのに声が聞こえてきたって逸話もあるじゃないですか」

 そういうこともあるな。
 まあ、確かにこの曲は労力のわりにネタにしかならない。
 もっとも、出来れば受けもいいだろうがな。

「他には何か無いんですか?」

 『nowhere』、だな。

「それって、どうせヤンマーニのところを歌わせようとしたんじゃないですか?」

 見くびるな。その他のバックのところ全てだ。

「なんでメインボーカルじゃないんですか」

 メインは友達にやってもらう。

「私は!?」

 だからバックコーラスだ。

「そんなぁ……」

 とはいえ、デビュー曲がそれではあんまりだからな。

「え、じゃあ……」

 手元に楽曲と歌詞があったのは一つだ。
 『hollow』、という曲だ。

「あ、それ! それでいいです!」

 ところがどうもうまくいかん上に二番煎じなので没にした。

「ひ、ひどい!」

 ここは一つ、好みの作品の曲でも歌ってもらおうと思ったのだがな……。

「何ですか?」

 東方project

「BGMだけで歌詞無いじゃないですか!」

 アレンジ曲で歌詞がついているものもある。
 代表的なのはさっきも言った……。

「ビートまりおさんから離れてください」

 『患部で止まってすぐ溶ける 〜 狂気の優曇華院』
 『魔理沙は大変なものを盗んでいきました』
 『ウサテイ』

 などもあるのだが。

「ネタから離れてくださいよー」

 次に好みの曲調のものだが。

「ネタですか?」

 失敬な。
 『未来への咆哮』だ。熱い曲だぞ。

「私のコンセプトにあってませんよー」

 分かっている。
 だが、試さずにはいられないものだ。
 これぞ人の業、人の夢。
 ……悪く言えば欲望だな。

「もう、最後だけで十分ですよー……」

 繋がりでT.Mさんの曲も考えた。

「え、あ、それって……」

 だがすぐに却下した。
 多分、キモくなる。

「そんな理由! 試す前から!?」

 他には何があったか……。

「マ、マスター……」

 なんだ?

「オリジナル曲なんかはないんですか?」

 馬鹿な。
 先人の足跡をそのまま足蹴にするようなまでが出来るか。

「いえ、そのまま歌うんじゃないですよ。マスターのオリジナル曲は――」

 無理だ。

「え?」

 先にも言ったはずだ。
 音楽ツール。DTMなどからっきしだ。
 まして作曲など夢のまた夢。

「そんなー……」

 というわけでだ。
 今回ここに用意した曲で頼む。

「ふえ?」

 『だんご大家族』という歌だな。原曲は『渚』という。
 幼稚な上にショートバージョン。二番煎じなのがな。

「……」

 コンセプトにも準じている。
 ちゃんとした曲のはずだ。不満か?

「え、いえ! 是非!」

 では早速調整に入る。

「ちょ、調整ですか?」

 なにぶんDTM初心者に耳コピは骨が折れた。
 楽譜も無いのにこの作業は難行は出来に不安が残る。
 問題あるか?

「いえ! ありません!」

 まあ、一番最初だ。
 優しい曲の方がいいだろう。

「マ、マスター……」

 ゆくゆくはオリジナルの曲を作りたいのもある。
 それまでのステップアップのためだ。
 お前のためではないぞ。

「はい!」

 大きな声を出すな。大声を出す曲じゃないんだぞ。

「わかりました!!」

 ……まあいい。
 そのうち、他の曲も歌ってもらうからな。

「……今まで言った以外では何を?」

 sound horizon

「無理です!」




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