ねこまたさん






とてとて。

ちらり。

とてとて。

ちらり。

「ふー。まだついてくるよー」

 私は深く溜息をついた。
 ちらりと振り返る。そこには一匹のネコちゃんが、私の後をひとなつっこそうについてきている。
 やけに輝き、らんらんとしたイノセントアイを直に受けてちょっと倒れそうになった。
 可愛いなー。

「あー駄目ー!」

 私は頭を押さえながら首を振った。
 そもそも、私が軽率な行動をとったのが悪い。たぶん。
 いくら引っ越してきたばかりの一人暮らしだからといって人恋し寂しさのあまり神社の境内の下にうずくまって
ひもじそうにしていたネコちゃんにそのときなけなしのパンをあげちゃっておいしそうに食べるネコちゃんを
なでなでし尽くしてそれでもって帰ろうと思ったときにネコちゃんがついてき始めてそれを流石に部屋には連
れて帰れないだろうなと思いつつも電車やバスなんかの手段を使うとかわいそうだなと思って10km以上の
距離を歩いて帰って……。

 落ち着こう、私。
 もう一回振り向くと、やっぱり無垢な可愛らしい瞳と目線がぶつかる。
 あまつさえ、「にゃーん」て……「にゃーん」ていうんですよ!?
 私は全身で振り返って両手を思い切り合わせた。

「ごめん、家じゃネコ飼えないから、たぶん! その、もう、ついてきちゃ、駄目!」

 言った私が泣きそうだった。
 ネコちゃんが首をかしげた。うう、可愛いよー。
 ネコちゃんきょろきょろし始める。じっと観察すると、どこかへ動き出した。
 諦めてくれたのかな?
 胸が痛む……。
 
 とてとて、ぴょん。

「……………………」

 これは、私への挑戦状かな?
 ネコちゃんは、そこに(何故か)置いてあったダンボールに入り込んで頭だけ出してこっちを見てる。
ピュアな瞳が私の胸に刺さってきます。しかもダンボールには一言。

『拾ってください』

 …………も、もう駄目。




 とっても疲れました。
 結局、あの場所でダンボールごとかっさらって家まで全力疾走しちゃいました。
 途中、大家さんに見られた気がしますが、気にしません。気にしてられません。
 大急ぎで部屋に帰ってドアをきつく閉める。さっとダンボールを置いて中身を確認し。

 ……目を回してました。

 すごいです。ネコちゃん、目がうずまきです。
 可愛さあまって抱きしめそうになったけどこらえました。

「だ、大丈夫!?」

 声をかけたらネコちゃんは意識をとり戻したらしく、「にゃー」と鳴いてくれました。ダンボールからぴょんと飛び出して擦り寄ってきます。
 反則です。

「ネコちゃん、もう大丈夫だからね」

 抱きしめるのをこらえて頭を撫でます。ネコちゃんは気持ちよさそうに目を細めています。

「おおきにな!」

 あまつさえ感謝の言葉を……

「え?」

 えっと、気のせいですね。立ち上がって周囲を確認しますが、窓は開いていません、テレビはつけていません、
電話もありません。ラジオもパソコンも起動していません。
 幻聴ですね。

「おおきになー、おねーちゃん」

 違うみたいです。
 私は声の方を見ました。

 そこには、頭に猫のような三角耳(通称、ネコ耳)を装備した可愛い女の子が、何故か巫女服に身を包んで立っていました。
 どうやらさっきのネコちゃん(動物)のようです。間違いありません。なぜなら私は、周囲を確認しつつも
視界の端にネコちゃん(可愛い)を捉えていましたから。
 
「聞こえとるんかー、ねーちゃん」

 そのネコちゃん(仮)は私の服の裾をつまんで呼び戻します。小さな背のネコちゃん(おそらく)は、
一生懸命背を伸ばして私の目の前で手をひらひらさせます。私は向き直りました。

「あ、良かったわ。気づいてもろて」

 そのネコちゃんは(極上)は私に向かって微笑みかけました。
 えっと………
 ぎゅ!

「にゃーーーーーーー! いきなり接近戦ーーー!?」
 
 私が思い切り抱きしめると、ネコちゃん(巫女)がおたけびを上げました。
 私も驚いて叫んでしまいしました。

「きゃーーーーーーー! ネコちゃんが人間になったーーー!?」
「苦しい苦しい苦しい! それとねーちゃん、自分驚く順番が違う!」
「だって、可愛かったら驚くのなんて二の次よ!」
「わかった、わかったから放したって! ねーちゃんおもろいけど、苦しい!」




「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「えーってえーって。どっちかゆーたら、助けてもろたのうちやし、これぐらいはサービスや」

 平謝りする私にネコちゃん(もう人)はそういって、ネコのように笑った。ネコだし。

「でも加減したってな? ねーちゃんのベアバックきつすぎや」
「私、プロレス詳しくない……」
「プロレス技て気付いとんやん」

 ネコちゃんは的確に突っ込みを入れてきます。大阪弁標準装備は伊達じゃないようです。

「とりあえず自己紹介や。うちはねこまた。みんなからは『ねこまたさん』て呼ばれとんねん。
ねーちゃんは好きに呼んだったらええさかい、よろしゅうなー」
「……ねこまたちゃん……でいいかな? ……えっと、よろしゅー」
「ん、ええでー。よろしゅうなー。でも、無理に真似せんでええでー」

 我が家に素敵な居候が増えました。
 ねこまたさんです。
 彼女はネコなので大家さんに怒られないかなーって思いますけど、最近隣の部屋から動物の鳴き声
(「みこーん」!?)が聞こえるので、たぶん大丈夫です。
 これから、私のお友達増加大作戦が始まるのです。
 かしこ。



☆おまけ☆
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