おおかみさん〜11話〜





 今日も、遠吠えがする。







 犬がサイレンに呼応して遠吠えするのは、オオカミだったときの本能だと言う。
 遠く離れた仲間とのコミュニケーションだと。

 それが仲間との挨拶なのか、会話なのか、

 寂しさを叫ぶ声なのか、

 犬でもオオカミでもない俺には分からないことだ。



 

 ただ、当の本人に聞く機会がなければ、だ。










 ピーポーピーポー

「わ、わおーー、ん……」

「……」

 ピーポー……

「わおーん……」

「……」

「……」

「……済んだか?」

「…………す、すみま、せ……ん……」

 もはや幾度目ともなるか分からない、おおかみの遠吠え。
 本人曰く、止められるようなものでもない、本能とのことだ。

 理由を聞けば、実に曖昧なこと。
 そこに大した理由なんか、実は無いということだ。

「謝るのは隣近所にしておけ。俺はもう慣れた」

「すみま、せん……」

 かくいう隣近所も承知済みであることなのだがな。


 本能の叫び。
 ならば、当のその本能は、何を思って咆えているのか。

 喜んでいるようには見えない。
 悲しいとも、少し違う。
 困っている。と言うのが一番近いか。

「遠吠えは、何と聞こえているのだ?」

「え? その、どういう、意味……ですか?」

「いや。遠吠えを返すのが本能として、その声が、何か意味ある言葉に聞こえているのか。そう思っただけだ」

 遠い昔に伝い合っていた、名残と言われる言葉。
 応える本能が働くほどには、重要なやり取りでもされていたのか。
 それとも、儀礼的な挨拶が交わされているのだろうか。


「あ、その、それは……」

「なんだ?」

「それが、その、よく……、わからないん、です……」

「わからない、か」

 期待があって聞いた話ではない。分からないならばそれまでのこと。
 
 応えられずに申し訳なさそうにしているおおかみの頭をなでる。なんとなく、置き場に困った、それだけだ。

 なでられるおおかみは、また、なんとも言いたそうな顔をしているが、目を細めておとなしくしている限り、不快感はなさそうだ。

 
 先日のこともあってか。

 特にその後に何があったということも無い。
 事を濁している気がしている。
 馬鹿な話だ。


 


 ピーポー

 先ほどのサイレンが帰って来た様だ。
 
「………………わぁ…………ぅー……」

「ん?」

「…………ふぁ、……ぉ、んー」

 

 …………なんだ?

「わ……く、……ぅん」
 
 



 …………力が抜けているらしい。


 
 結局、サイレンが聞こえなくなるまで力が抜けたまで、その後になってやっと、俺は、その間頭をなで続けていたこと気付いた。


 手を離してから、おおかみの顔を見たが、涙目だった。




「すまん」

「……はい」




 くだらぬやり取りだとは思ったが、悪いものではないと思う。
 馬鹿な話だがな。





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