サンタなんて居ないと言い張るけど実は信じてる女の子





「さぁ言え!

『サンタさん助けて』と」

「ば、馬鹿じゃないの!
サンタクロースなんて、いるわけないじゃない」

「ふふふ、下手な嘘はやめな。
お前がサンタクロースとつながりがあるのはわかってんだ」

「サンタクロースを呼んで、どうする気よ…?」

「よくぞ聞いてくれた!
我々は、サンタクロースの力を悪用し世界征服を企む悪の秘密結社なのだよ!
手始めに君が呼んだサンタクロースを捕獲させてもらうのさ」

「いっ、いやよ!
サンタクロースなんていないんだからっ!
来るわけ無いじゃない」

「仕方ない、痛いことはしたくなかったんだが…。
君の悲鳴を聞けば、サンタクロースもやってくるだろう」

「…ちょ、ちょっと、なにする気…?」

「ふっふっふ」

「ふっふっふ」

「ふっふっふっふっふ」

バタン

「待てぃ!」

「む、き、貴様は!」

「世のため人のため、子供たちの夢を守るサンタクロース!
このプレゼントの中身を恐れぬなら、かかってこいぃ!」

「こしゃくなやつめ!かかれ!」

バキッ ドゴッ グシャッ

「はっはっは、サンタをなめるなよ!」

「サンタさん後ろっ」

「隙あり〜!」

「む、しまっ」

バキィィィッ

『サンタさん大丈夫トナカイ?』

「真っ赤なお鼻のトナカイ…、助かったぞ!」

『僕も戦うトナカイ!』

「すまないな!」

「お、おのれ…、動物まで味方につけるとは。
やはりその力、欲しい…!」

ドカッ グキッ トナカイッ

「さぁ、残るはお前だけだ!」

「くっ、おぼえていろ〜!」

ドロン

「逃げたか…」

「サンタさん」

「無事だったかい」

「サンタさん…、サンタさんのこと信じてないなんて言ってごめんなさい」

「気にしてないさ。心までは偽れない。
君が心の底から助けを呼ぶ声が聞こえたから、僕はここに来たんだ」

『全力疾走だったトナカイ』

「サンタさん…」

「これからも、サンタクロースを信じてくれるね!」

「…もちろんですっ!」

「よし!それじゃぁ家まで送るよ、さ、ソリに乗って」

「はい!」

『もちろん安全運転だトナカイ』

シャンシャララ
シャンシャララ

「うっわ〜、すご〜い!」

「ほらほら、きちんと座って」

『危ないトナカイ』

「あ、は〜い」



シャンシャララ

シャンシャララ

シャンシャララ

シャンシャララ



シャンシャララン









酷い夢を見た…!



サンタクロースなんているわけない。

いるならあの日、あたしのお父さんとお母さんを助けてくれたもの。

「みんな、踊らされてるだけなのよ…」

外が騒がしい。

準備のため。
サンタクロース捕獲作戦の。

いい大人がサンタクロースを真に受けて、それで捕まえようだなんて。

「いるわけない」

夢で見たようなことにはならない。
夢は夢。
叶わない未来のことなのだから。

ジャラッ ゴト

左足が痛い。
逃げないように左足首につけられた鎖のせい。
そしてその先の鉄球のせい。

「逃げないわよ…」

逃げてどうなるの?
子供のあたしじゃ、どうせ途中で捕まって終わり。
逃げ切れたって、身よりのないあたしには行くところなんてない。



『サンタクロースがいれば』



「もぅ!」

ガン

右手で地面を叩く。
嫌な考え。



『サンタクロースがいれば、またお父さんとお母さんに会えたのに』



「なんだ、どうした?」

音を聞いた誰かが、牢の前までやって来た。

「なにかあったのか?」

それを見た別の男も。

「なんでもないみたいだ」

「そうか」

最初に来た男がそう言うと、後から来た男は戻っていった。
準備はまだ終わってないみたいだ。

サンタクロースなんていないのに、失敗したらどうするつもりだろう。

「はぁ…」

ちょっと大げさに息を吐いてから、気づいた。
さっきの男がまだいることに。

なんなのだろう?
何もなかったんだから、向こうに戻って準備を手伝うべきなんじゃないの?

「逃げる気はあるのか?」

男は変なことを言った。

「無いわよ、どうせ逃げきれないし…」

足枷がついてる状態で、大人数の大人から逃げられるはずもない。

「なら、その枷がなかったら、逃げる気になるのか?」
「枷が、なかったら?」

それなら…、ううん、それでも無理。

「枷がなくても一緒よ。大人にかないっこない」

「なら、助けが来るまでそのままか?」

「…そうよ」

あたしには何もできない。
だから、何もしない。

「やれやれ…、せっかく来たのにこれじゃぁな」

男の呆れたような…、言葉?

「だ、誰…?」

せっかく来た…?
何をしに…?

「サンタさんだ。いちおうな」

「うそ…、うそよ」

いるはずないもの。

「信じる信じないは自由だ」

カチャッ

男は牢の鍵を開け、入ってきた。

「助けてくれるの!?」

「残念ながら」

そして私の足枷を外す。

ガチャ

「ハズレ」

「どうして?ここから連れていってくれないの?」

牢を開けて足枷も解いてくれたのに…。

「手助けはするが、そこまでだ。
自分で何かをすることを学ばなければ、いつまでたっても誰かに助けを求める。
それじゃぁ駄目だ」

「なによそれ…。
助けられるなら、助けてくれてもいいじゃない」

「やなこった」

男はそう言うと、牢を開けたまま帰っていった。

「自分で逃げる…?」

牢は開いている。
足枷もない。

でも、すぐに見つかるに決まってる。
逃げられっこない。



「さ、サンタクロースが来たぞ〜!」
「撃て、撃ち落とせ!」

誰かの叫び声と同時に、銃を乱射する音が聞こえ始めた。

「あの男、見つかったの…!?」

サンタクロースだなんて思えない。
けど、あたしを助けた男を見間違えるぐらいはするかもしれない。

「ど、どこだ!?」

「あっちだ!」

聞こえてくる余裕のない声。
まだ捕まえてはいないみたい。
なんのための準備だったんだか…。

「ちくしょう、逃がすか!」

「追え、追えっ!」

バタバタとした足音が遠ざかっていく。
建物の外に出たようだ。
だんだんと静けさが戻っていく。

「あ、これって…」

チャンス…?

人の目がサンタクロースに向いてる今、逃げ出すには絶好の機会。
まさか牢の鍵が開いていて、足枷も解けているなんて夢にも思っていないだろうし。

『手助けはするが』

男の言葉が蘇る。
これが、ここまでが手助けだったのだろうか…?

『自分で何かをすることを学ばなければ』

あの男の言うとおりになるのは癪だけど、逃げ出すチャンスは今しかなさそう。

あたしは、しばらくぶりに足を使い、牢の外へ駆けだした。



どこか大きな建物の中だった。
出入り口は光が射し込む大きな扉。
幸い今は誰もいない。

「はぁ、はぁ」

息が切れる。
足が痛い。
腕が重い。

誰かが扉のそばに来たら、間違いなく見つかると思った。

思ったけど、走るのはやめなかった。

『今は』誰もいないから。
誰かが来る前に出ればいい。

いや、それは都合のいい願い。

たぶん、少しでも早く自由になりたかったんだと思う。
こんな生活を、終わりにしたかったんだと思う。



「ぅぁぁぁぁぁっ!」

気がつけば、叫んでいた。
見つかることなんて考えずに。

「ぅぅ、ぁぁぁっ」

気がつけば、泣いていた。
無駄だとわかっているくせに。

「ぅ、ぁぁぁ、っ」

胸が苦しい。

走るのに疲れたから?

違う。

怖いんだ。

捕まった後のことを考えるのが。

手にしかけた自由を奪われるのが。

やっと見つけた希望が、失われるのが。



辺りは静かだった。
あまりの怖さで、耳が聞こえなくなったのだろうか。

自分の心臓の音だけが聞こえる中、あたしは扉から外へ出た。





「ふぅ」

そこは、どこかの港の一角だった。

「一歩、踏み出せたようで安心したぞ」

あたしがいたのは、数ある倉庫のうちの一つ。

「君へのプレゼントは」

目の前には、一人の男が、
さっきの男が、立っていた。

「自由だ」

その言葉で、実感した。
あたしは、

「ふ、ぁぁぁぁぁん」

「そう泣くな。無理もないが…」

久しぶりに、本当に久しぶりに感情を爆発させたあたしに、男は、

「俺は、子供をあやすのは苦手だ」

不器用に、頭を撫でた。

「っく、ふぁぁぁん」

その暖かさが、余計に涙を誘った。

あたしが泣き止むまで、男は不器用で不慣れなその行為を、やめようとはしなかった。





両親が死んでから最初のクリスマス、あたしは、サンタクロースに両親を願った。

どれだけ本気だったのだろう?

願いは叶わず、あたしはサンタクロースを信じなくなった。

「よく寝ている…」

でも、きっとわかってた。
死んだ人はかえってこないのだと。

あたしは、両親に会えない寂しさと、両親を亡くした悲しさを、サンタクロースのせいにしてただけ。

「君がサンタクロースを信じていなくても」

サンタクロースは、本当はいる。

だって、願いを叶えてくれた。

いないと思いながらも、心の底では願っていた願いを。

「願いは叶える」

あたしに自由を、
プレゼントしてくれた。

「それが、仕事だ」

ありがとう。
サンタさん。



一言感想もらえるとうれしく思います。

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