数え切れないくらい愛し合って、たった一度だけ手を繋いだ




数え切れないくらい愛し合って、
数え切れないくらい相手の温もりを感じて、
数え切れないくらい抱き合って、
数え切れないくらい好きだという言葉を交換した。

数え切れないくらい色んな場所に行き、数え切れないくらい一緒に食事をした。


数え切れないくらい…、数え切れないくらい……、数え切れないくらい………、
互いに相手を求めた。



そして、たった一度だけ…

手を繋いだ、二人。



















彼は、自分以外の全ての存在の言葉が、理解できなかった。
彼女は、自分を含めた全ての存在の言葉が、理解できた。


意識の渦…。

彼にとって、そこは唯一、自分が他人と交流を持てる場だった。
言葉を介さず、他人の考えがわかる場所。
だが、彼はそこでも、自分の考えを相手に伝えることは出来なかった。
永遠の孤独…。
彼はずっと、そこにいながら、自分以外の存在を見つめていた。

彼女にとって、そこは唯一、自分が他人と離れられる場だった。
そこ以外の場では、他人の意識が強制的に頭に流れてくる。
だが、そこにいても、一人にはなれなかった。
常に誰かと生きる存在。
彼女はずっと、そこにいながら、感じることの無い孤独に、憧れていた。


二人が出会ったのは、偶然だったのだろうか…。
膨大な数の存在が存在する、その意識の渦で、ある存在とある存在が出会うのは、奇跡だった。
常に奇跡が起こり続けるそこで、彼と彼女は出会った。

たった一度、互いの存在を感じただけで、二人は互いがどういう存在であるか知った。

彼女は、意識の中が見れる。
つまり、彼の考えていることが、彼女にはわかった。
彼にとって、彼女は永遠の孤独から解き放ってくれた、唯一の存在だった。

彼は、自分以外に意識を伝えることが出来ない。
つまり、彼といる間は、他人の意識が流れてこない。
彼女にとって、彼といることは限りなく孤独に近いことだった。


二人は、すぐに、お互いを必要とし合った。
お互いにとって相手は、今まで望んでいたものを本当にしてくれる存在だった。
やがて二人は、自分の時間をそこで過ごすようになった。
ずっと、二人っきりで、互いを求め合った。

数え切れないくらい愛し合って、
数え切れないくらい相手の温もりを感じて、
数え切れないくらい抱き合って、
数え切れないくらい好きだという言葉を交換した。

数え切れないくらい色んな場所に行き、数え切れないくらい一緒に食事をした。


数え切れないくらい…、数え切れないくらい……、数え切れないくらい………、
互いに相手を求めた。





二人にとって、
それは幸せ。
それは、
幸せな時間だった。












終わりは、
突然だった。


ある時、
意識の渦が消えた。


意識の渦は、
膨大な量の存在の意識が存在してこそ
成り立つものだったのだ。


全ての存在の9割が、
ある時、
消えたのだ。


彼と彼女は、
急に、
昔に戻った。

永遠の孤独を感じていた彼と、
孤独に憧れていた彼女に。


それは、
幸せの終わり。

幸せな時間の、
終わり。





永遠の孤独が、返ってきた。
彼にとってそれは、絶望に近いことだった。
誰かと意識を交換し合う。
そのことを知った彼にとって、孤独は前よりも、孤独に感じられた。

絶望と孤独の中、時間は流れた。
意識の渦は相変わらず消えたまま。
何が起こったか、何故意識の渦が消えたままなのか、彼にはわからなかった。
ただその事実だけが、彼を支配していた。
そんな中、彼は、彼女のことを考えていた。
そして、絶望と孤独の中、彼は一つの決断をした。

彼女を捜す。

他人の言葉がわからない彼にとって、それは、不可能なことに思えた。
それでも彼は、彼女のことが心配だった。
そしてそれ以上に、彼女に逢いたかった。
自分を唯一、理解してくれる彼女に。

彼は、久しぶりに動いた。
本当に久しぶりに。
いろんな存在に会い、いろんな存在を見た。
そして、彼女をひたすらに捜した。

どれくらい捜しただろう。
とても長い時間に思えた。
だが、彼は諦めなかった。
時が経てば経つほど、想いは募るばかりだった。

逢えないのだろうか…。
そう思うこともあった。
逢いたい。
そのつど、そう思った。



長い長い、
長い時間、捜して、
彼はある日、
彼女に、
出逢った。


彼女は、眠っていた。
意識の渦が無くなり、膨大な量の意識が彼女に流れ込んだのだ。
それは、彼女の許容量を超えていた。
彼女は目を覚ますたびに、その意識の量に苦しめられた。

彼の意識さえも、
意識の渦以外の場所では、
彼女の重荷にしか、
ならなかった。

自分の存在すらも、彼女にとっては苦痛になる。
彼にとってそれは、孤独よりも辛いことだった。

求めていた存在を、苦痛に感じてしまう。
彼女にとってそれは、耐え難いことだった。


二人は悩んだ。
どうすれば、
互いが幸せになるかを…。

そして、
二人はやがて、
同じ答えにたどり着いた。





彼女が目を覚ました。
苦しみに顔を歪ませながら、
孤独を感じながら、
お互いに相手の考えを知る。

言葉は無い。
だが、
相手の意識を感じ、
相手を信じて、
二人は、
ゆっくりと、
手を繋いだ。





数え切れないくらい愛し合って、
数え切れないくらい相手の温もりを感じて、
数え切れないくらい抱き合って、
数え切れないくらい好きだという言葉を交換した。

数え切れないくらい色んな場所に行き、数え切れないくらい一緒に食事をした。


数え切れないくらい…、数え切れないくらい……、数え切れないくらい………、
互いに相手を求めた。



そして、たった一度だけ…

手を繋いだ、二人。



たった一度だけ…、
手を繋いだ二人は、
そのままゆっくりと、
消えていった。



彼は、火の精霊。
彼は、自分以外の全ての存在の言葉が、理解できなかった。
彼女は、水の精霊。
彼女は、自分を含めた全ての存在の言葉が、理解できた。

二人は、
結ばれない運命の二人。

二人は、
結ばれてはいけない二人。






数え切れないくらい愛し合って、
数え切れないくらい相手の温もりを感じて、
数え切れないくらい抱き合って、
数え切れないくらい好きだという言葉を交換した。

数え切れないくらい色んな場所に行き、数え切れないくらい一緒に食事をした。


数え切れないくらい…、数え切れないくらい……、数え切れないくらい………、
互いに相手を求めた。


それは、意識の渦での話。





互いに相手を求めた二人は、
現実でたった一度だけ…、

手を繋いだ。





そうして、
二人は、
ゆっくり、
消えた。





二人にとって、
それは幸せ。


それは、

幸せな時間の、
始まり…。



幸せな時間の、
始まり。

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