夕日の丘での銃撃戦






コッ

ふいに、男の席にカクテルが置かれる。
鮮やかな血のような朱のカクテル、その意味を、男は知っていた。

(仕事か…)

そう思い顔を上げる。と、
『あちらのお客様からです』
ウェイターは、端に座っている一人の若い男を差した。

『ありがとう』

男は今まで飲んでいたグラスを空にし、朱いカクテルを持って若い男の席に向かう。
知らない顔だった。



男が席に着く。

『はじめまして。私は−』
『待った』

男は、相手が名乗ろうとするのを止めた。

『お互い名を名乗るのは無しにしようや』
『そ、そうですか…。では、何と呼べば?』
『そうだなぁ…。
じゃぁ、俺のことはレッド、お前は、イエローな』
『わ、わかりました』

イエローはどこか納得のいかない顔で頷く。

『それで、あんたが俺を頼った訳は?』
『盗賊団の、壊滅です』
『盗賊団だぁ!?』

レッドは不機嫌そうな声を上げた。
傭兵として20年…、その男にとって、今回の内容は不服だった。

『それぐらい、自警団に任せとけばいいだろうが』
『自警団も動きます。
ですが、私はその前に殺してやりたいやつがいるのです』
『物騒だな。訳ありか』
『えぇ』

男は溜め息をつき、朱いカクテルを一口飲む。

『確かに自警団に任せれば殺せないかもしれない、だが、そいつが死ぬ可能性は高いだろ?』

盗賊団と言うからにはおとなしくは捕まらないだろう。
なら、その際の撃ち合いで射殺される可能性は高い。

『そうかもしれません。でも、やはり死なないかもしれない』
『なるほど。だが、相手を殺せる距離っていうのは』
『自分が殺される距離、ですよね。命を懸ける覚悟はできてます』

イエローの決意は固かった。

『わかった。まぁこっちも仕事だ、嫌とは言わんがな』

言って、男はカクテルを飲み干した。





『もうすぐ、奴等はここを通るはずです』

二人は日が落ちてきた頃、ある街から数キロ離れた場所にいた。

『弾除けの障害物が何もないな。大丈夫なのか?』
『仕方ありません。ここを逃せば、街に入られてしまいます』

回りには何もなく、ただ舗装されたなだらかな斜面が、空に向かっていた。

『…きました』

イエローが道路の先を見据えて言う。
空との境目から、影が伸びる。

『おい、ありゃぁ戦車じゃねぇか!』
『えぇ、どこからか掘り出した物らしいです。大丈夫、故障しているようで大砲は撃てません』

そう言うと、イエローは走り出した。

『ちっ、面倒な』

レッドも慌てて後を追う。
盗賊団は戦車を囲むように歩いていた。
外にいるだけで10人以上。

ダァァァァン

『うおっ』
『敵か!』

盗賊団たちが、夕日を背にして駆けてくる二人を見つけたのは、イエローの撃った一発が仲間の一人を貫いてからだった。

ダンッ ダンダンァァァン

反撃の暇を与えず、イエローの弾が盗賊団を撃ち抜く。
撃ち抜きながら、なおも距離を詰める。

『この野郎』
『死ねぇ』

ダダダダダダダダダッ

戦車の前方にいた四人が殺られた頃、ようやく銃を構えた仲間が、マシンガンをぶっ放す。

『くっ』

イエローは大きく横に飛びながら、左右に持った二丁の銃を撃つ。

『がぁっ…』

見事に命中させ、二人を倒す。
が、受け身はとれず、そのまま転がる。

『うっ…』

『チャンスだ』
パンッ
『ぐぁ』

体制をたてなおそうとするイエローを狙った相手が、レッドの弾に殺られる。

『ちっ、こいつら』

マシンガン、スナイパーライフル、ショットガン

数々の銃を持つ盗賊団たちは、旧式の銃を持つ二人に次々と殺られていった。

『ちくしょう、何で当たらねぇ!…がはっ』
『銃の性能に頼り過ぎだ。もっと良く狙え』
『まったくです』

シュッ
『っつ、あっ!』

一筋の光が、イエローの左ふとももを貫いた。

『イエロー!ちっ』
パンッ
『ぎゃっ』

レッドは、イエローにトドメをさそうとした相手を撃ち

シュッ
『っ、と』

光を避ける。
出所は戦車の上、そこに一人の男が立っていた。
すでに他に仲間はいない。

『やれやれ、まさか二人に壊滅されかけるとはね』

男は手に持った銃を油断無く構えている。

『レールガンか…』

実弾式の銃より、殺傷能力と射程距離に優れ、無反動のレーザーを打ち出すレールガン。
男が持っていたのはそれだった。

『動くなよ、動けばそいつを撃つ』

男は倒れ込んだイエローを指して言う。

『勝手にするんだな』
『なに!?』
『俺とあいつはそんな仲じゃねぇ。
ただし、俺はお前があいつを撃つ隙は見逃さねぇぜ』

ハッタリではない、と男は思った。
イエローは何とか銃を構えるが、傷が痛いのか手が震えていた。
それを見た男は

『なら、お前から殺さねばならんな』

レッドに向かってレールガンを撃つ。

光が一瞬の内に空気を切り裂き、その直線上全てのものを貫通する。
が、その線上にレッドはいなかった。

パンッ
『ちっ…』

わずかに早く左に避けたレッドは、瞬時に男に向かって撃つ。
が、男は間一髪かわす。

『おのれ、そんな旧式で』
『新しけりゃいいってもんでも無いぜ』

二人は互いに動きながら、隙を撃つ。
だがどちらも当たらず、レッドの弾が切れる。

『弾切れか、所詮旧式』
『ちっ』

弾を補充する隙を伺いながら、必死に光を躱すレッド。
その時

ダァァァァァン
『ぐっ…』

イエローの弾が、男の右腕を撃ち抜いた。

『おのれ』

男はイエローを睨付けると、戦車に走った。
その間にレッドはイエローに駆け寄る。

『大丈夫か?』
『あ、あいつは、私の手で…』

震える手で男を狙うが、撃つより早く、戦車の中に消えた。
そして、二人に向かって戦車が走り出す。

『くそっ…』

ダァァァン
カン

空しく跳ね返される弾。
レッドは懐からある弾を取り出し、イエローに渡した。

『この弾を使え。お前に覚悟があれば、貫ける』
『そんな、相手は戦車ですよ』
『やれるかどうかは、お前次第だ』

イエローは不思議に思いながらも、その弾を愛銃に込める。

『駄目だったら、私に構わずに逃げてください。これに、私の命を懸けます』

すでに片足を怪我したイエローに逃げる力は無かった。
撃ち抜けなければ、死。

『わかった。ただ、一つ言っておく』

レッドは立ち上がり、イエローに言った。
『命は懸けるもんじゃない。命は、燃やすものだ』
『燃やすもの…、ですか』

そうかもしれない、と、イエローは思った。
一か八か懸けるのではなく、生きるために、何かを成す為に燃やすことが、正しいのかもしれないと。

指が、引き金を引く。

レールガンに似た鮮やかな光が、銃身から伸びる。

それは迫り来る戦車に吸い込まれ、



少しの間をおいて、



それを消滅させた。





昔の弾だった。

実弾式の銃の威力を限界まで高める為に作られた弾。

それは使い手を選び、ほんの一握りの者しか扱えなかったと言う。

そのため、時を近くして出現したレールガンに埋もれ、その存在を知るものは少ない。

だが、その弾の真の力を引き出した時の威力は、

未だ、他の追随を許してはいなかった。





古い、話だった。



一言感想もらえるとうれしく思います。

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