騎士&騎士っ子





一振りの剣があった。

本当の騎士のみが、鞘から抜くことを許された剣が。

その剣がいつから、そして何本あるか誰も知らない。

本物の騎士になるであろう者のそばに、いつの間にか存在しているのだ。





『騎士ならば、私の命に従いなさい!』

男は足を止め、ゆっくりと振り向く。

主の言葉を背中で受ける訳にはいかないからだ。

『私達と共に、逃げるのです』

主であるその少女は、泣きそうな顔をしてそう命を下した。

男は生粋の騎士だった。

主の命に背いたことはただの一度たりともなかった。

だが、男は分かっていた。

ここで自分が主と共に逃げれば、誰も助からないことを。

もしかしたら、主はそこまでわかっていて、自分を引き止めたのかもしれない。

死ぬのならば、家族同然に育った皆と一緒に死にたいと、そう思っているのかもしれない。



外の騒がしさが近付いてくる。

もう半日とたたずして、革命は成し遂げられるだろう。

それを防ぐ術は無い。



『姫…』

男は口を開き、ひざまずく。

『一緒には行けません』

静かだがはっきりとした声で男は言った。

『何故です!騎士とは、主の命を何よりも優先すべきでしょう!?』

少女の問い掛けに男は顔を上げる。

『そうです。
騎士とは、そういうものだと思っていました』

男は少女の目を真っ直ぐに見つめ、言葉を続ける。

『しかし、私はわかったのです。
本当の騎士とは、何かを』

男は立ち上がり、腰の剣に手をかける。

そして、少女のそばにいる少年と目を合わす。

少年は、男の自慢の息子だった。

息子もまた、幼い頃より騎士として育てられてきた。

優秀な息子だった。

ゆえに、父である男を引き止めるようなことはしなかった。

ただ、悲しい顔で、その偉大な父親を見つめるだけ。





『さよならです、姫』

男は主と息子に背を向け、扉に向かって歩き出した。

『ま、待ちなさ…』
『姫!』

駆け出そうとした少女を、息子が静止させる。

『私の父は、本当の騎士になりに行ったのです』

その声は震えていた。
息子もまた、父に死んで欲しくはなかった。

だが、生き残るにはそれしかないのだと、わかっていた。

『本当の騎士とは何です!?
主の命を破ることなのですか!?』

少女は親子に問う。

男は振り返らない。

代わりに息子が口を開く。

『本当の騎士とは、主にとって何が最良かを見極め、行動する騎士のことではないでしょうか…』

息子はひざまずき、

『逃げましょう、姫』
そう言って、顔を上げた。

幼い少女は目を瞑り、涙を一滴流した。

そして次に目を開いた時には、決意の瞳のそれになっていた。

『行きましょう』

その力強い主の声を背中で聞いて、男は扉を開き、部屋を後にした。





青年の頃に男が譲り受けた剣。

その日から、常に腰にさしていた剣。

一度たりとも、鞘から抜かれなかった剣。

男はその剣を持ち、ゆっくりと引き抜いた。

黄金とも、朱色とも囁かれていたその剣は、
ただ寡黙な白だった。

男は剣を一振りし、走り出した。



人を殺す殺人剣―――

人を活かす活人剣―――



男の剣はどちらなのだろうか?

己を殺し、主を活かすその騎士の剣の名を

まだ、誰も知らない―――――




『あとがき』

騎士が好きなので、『抜けない剣』の設定を思いついてからはすらすら書けました。

人を殺す殺人剣、人を活かす活人剣。
自分の命を捨て、主を守る騎士の剣は、何という名前なのでしょうね。

一言感想もらえるとうれしく思います。

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