ワイルドな親父のクリスマス





ビュォォォォォッ

「山の天気は変わりやすいとはまさにこのことだな!
出発したときは快晴だったのにこの吹雪」

「父さん…、寒いよ」

「これくらいでへこたれるなぁ!
寒いと思うのは景色を経験で考えるからだ!
雪山なぞ気にするんじゃない」

「父さん…寒いよ…」

「仕方の無い奴だ!
まってろ、父さんがいざ鎌倉っ!
じゃなかった、今、かまくらを作ってやるから」

「父さん…、ねむ、ぃ…」

「はっはっは〜!
なかなか難しいもんだな、かまくらってぃぅ…」

ビュォォォォォッ





「さんたくろぅす?」

「そう、サンタクロースだ!
もうすぐクリスマスだから、何かプレゼントを頼もう!」

「見たこと無い人は信じられないよ。
ましてやプレゼントをくれるなんて」

見たことのないものは知らない。
見たことないんだから、信じられるわけ無い。

「むぅ…、よし!ちょっと待ってなさい」

父さんが部屋から出ていき、しばらくして、

「ふぉっふぉっふぉっ、私がサンタクロ」

「父さんだよね」

赤い服を着て帽子をかぶった父さんは、変な顔をしながら、

「まぁサンタクロースって言うのはこういう格好をしているもんなんだ」

サンタクロースの説明を始めた。

クリスマスイヴの夜に、子供たちのところに来てそっとプレゼントを置いて帰る。

「だから、プレゼントは何がいいか考えておかなきゃ」

「別に無いよ…。
それに、知らない人から物をもらうのはいけないことなんでしょ」

「サンタさんは別だ」

晩ご飯を食べながら父さんは話し出した。

「父さんが子供の頃、サンタクロースはちゃんとプレゼントをくれたぞ!
父さんが好きだった蛙のおもちゃをだ!
そいつはスイッチ一つで舌が伸びてなぁ、よくおもちゃの蠅を食べさせたもんだ!」

「ふ〜ん」

「次の年は、これまた欲しかった機械じかけのヤドカリのおもちゃだ!
砂の上に置いとくと自動で潜るという優れ物!
ときたま殻から出たりするといったユーモアあふれるおもちゃだった」

「ふ〜ん…」

「そして次の年が」

結局その説明は父さんがプレゼントをもらわなくなるまで、全部で12回分聞かされた。
説明し終わった父さんは、もう冷たくなっていたご飯を一気に完食した。



「でも、やっぱり見たこともない人を信じるのは無理だよ」

父さんが食べ終わってから、僕は言った。

「むむむ…、ならば仕方がない」

父さんは立ち上がり、奥の部屋に引っ込む。
がさごそと音が聞こえ、止む。
そして戻ってきて、

「今から会いに行くぞ!サンタクロースに」

言った。





「う、ん…」

目が覚めると、狭い視界を白い物が覆っていた。

「おぉ、起きたか!」

「父さん、これ何?」

僕たちを包む雪の塊を指して聞く。

「これは『かまくら』というやつだ!雪で作る家みたいなもんだな。
父さん初めて作ったんだが、なかなかうまくいったみたいで良かった!」

不思議だ。
冷たい雪でできてるのに、暖かい。

「この山の頂上に、サンタクロースはいるの?」

目的地はそこらしい。

「ん、まぁ、たぶんな」

「たぶん?」

「サンタクロースは世界中にいるんだ。だから、いろんな場所に家を持つ。
でも、サンタクロースは忙しいから、いつもその家にいるとは限らないんだ」

「普通の日でも忙しいの?」

「そうさ!
どの子供にどんなプレゼントを与えるか考えたり、頼まれたプレゼントを探したり、いろいろやることがあるんだ」

「ふ〜ん」

「さて、ご飯にしよう!
なぁに、食べ終わる頃には吹雪も止むさ!」

そう言って父さんは、リュックの中から食料を取り出した。

外はまだ、吹雪いていた。





思えば、父さんが知らないことは何一つ無かったような気がする。

僕が知らなかったたくさんのことを、父さんは教えてくれた。

嘘なんて無く、間違った情報なんて無く、それは正しいものばかりだった。

そう考えれば、サンタクロースという人はちゃんといるのだろう。
父さんがあんなに詳しく話す人が、いないはずはない。

でも、やっぱり見たことの無い人は信じられない。
見たことの無い物も。



吹雪は止まなかった。
僕たちを逃がしたくないかのように、雪の混じった突風は吹き続けた。

やがてほとんどの食料がなくなり、父さんは助けを呼びに行くと言って、かまくらから出ていった。

わずかに残った食べ物を、言われた通りに少しずつ食べる。

時間の感覚はとっくに麻痺し、父さんが出て行ってからどれくらいの時間が経ったのかわからなくなった。



ただ、一人で待ち続ける。



不安は広がるばかりだった。

「父さん…」



一人きりのかまくらの中で呟く。

『信じる』と、言えばよかったんだろうか。
そうすれば雪山に来ることもなく、一人きりになることもなかった。

『信じる』と言って、何か『欲しいもの』を願えばよかったのだろうか。

でも僕には『信じること』もできないし、『欲しいもの』もなかった。



「でも…」

でも、父さんは嘘をつかない。

だから、きっといる。

なら、欲しいものを言えば、本当に持ってきてくれるのだろう。

僕は、かまくらから外に出た。



ビュォォォォォッ



風が吹き、体が雪に埋もれていく。

でも構わず、僕は口を開いた。

「サンタクロースさん。欲しいものがあります」

風は強く、自分の言った言葉も聞こえない。
それでも、

「お父さんを、ください」



ビュォォォォォッ



自分がどこを向いているかわからないくらい視界は真っ白。

でも気がつくと、僕の前には、

父さんが言ってたトナカイと、
父さんが言ってたソリと、
父さんが言ってた赤い帽子と、
父さんが言ってた赤い服を着た、

「サンタクロースさん…?」

「正解」

やっぱり、本当にいたんだ。

「まだクリスマスイヴには早いんだけど、この場合は仕方ないかな」

ソリを指すサンタクロース。

「父さん!」

「乗りなさい。ふもとの町まで送ってあげるよ」



言われるままに僕は乗った。
空を飛ぶソリはその話の通り、縦横無尽に空を走った。

「頼んでごらん、プレゼント」

「え?」

「君のお父さんは、君に何かを欲しがってほしいんだよ」

「でも…、別にないんだ」

「何でもいいのさ。服だったり、靴だったり、食べ物だったり。
特別なものである必要はない。
大事なのは、君が欲しがっているという事と、お父さんがそれを叶えたということなのだから」

「…うん」





「う、ぅぅん」

「父さん、気がついた?」

「ここは…?」

「ふもとの町だよ。サンタさんが運んでくれたんだ」

「なに!じゃぁ、サンタクロースに会ったのか!?」

「うん!」

「なら、サンタクロースを信じるだろ?
さ、プレゼントは何が良い?」

「プレゼントは、いらないよ」

「なにっ!?」

そう、プレゼントはいらない。

「サンタさんからのプレゼントはいらない」

「そうか…」

代わりに、

「でも、父さんの作ったご飯が食べたい。
すっごく豪華なご飯が!」

父さんに頼もう。

「…ぁ、あはははははっ!
そうかそうか、凄く豪華なご飯か!
こりゃ、頑張って作らなきゃならんな!」

父さんは凄く嬉しそうに笑った。

つられて僕も、

「ふふ」

こっそり笑った。



一言感想もらえるとうれしく思います。

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