魔女っ子





快晴の空を見上げれば、時を置かずして、箒に乗った魔女が見られるだろう。

眩しさを我慢しながら空を見続ければ、時を置かずして、箒に乗った大勢の魔女が見られるだろう。

大勢の魔女は縦横無尽に空を翔け、人々に夢を与えてくれる。

そして、年に数回しか見られない大勢の魔女を見たこの日の夜は、いつもより鮮やかな星空が、人々の前に姿を現す。

それは、大勢の魔女がみんなに与えてくれたプレゼントなのかもしれない。





って、みんなは思ってるはずでしょ?

あたしだって思ってた!

幼い頃から、空を翔ける魔女を何度も見てきた!

満点の綺麗な星空は、夏祭りや初詣や旅行なんかと同じくらいの一大イベントだった!

子供は空を見上げては夢を見る。

大人は空を見上げては夢を思い出す。

それは神聖で荘厳な儀式。

地上から大勢の魔女を見上げる人達は、みんなそう思ってる!

なのに、

なのに!



『大掃除です』

先生は、はっきりとした言葉でもう一度そう言った。





魔女は、好きなように空を飛べる。

それが、本当は空に浮かんでいる見えない道を進んでいるのだと知ったのは、魔女学校一年生の、記念すべき初めての授業でのことだった。

手に持った箒に魔力を込め、見えない道と反発させて浮かせる。
あとはイメージした通りに進むらしい。





『みんな、準備はできた?』

先生が一人一人を確認しながら言う。


愛用の箒に、帽子に、体全身をすっぽり覆ってしまうぐらいの長いマント。

今日は見えない道の大掃除。

箒は見えない道を掃除するため。

帽子は日射病にならないように。

マントは、埃で服が汚れないように。

なんて合理的なスタイル。

でもそのせいで、大多数の人の魔女のイメージはこの姿になってしまっている。

まぁ、魔女だとすぐ分かり、なおかつインパクトがあるのが今日だから仕方ないか…。



『自分の掃除区域は覚えたわね?
いつもは箒に魔力を込めて浮いて走るけど、今日は調節して地面を掃くように、箒の先だけつけるのよ』

『『は〜い』』

みんなが元気よく返事をする。

今日は両親が見に来る日だからなおさらだ。

魔女の素質があれば、どこからかスカウトが来る。

そして魔女学校に入学すると寮で暮らすことになる。

だから、今日は両親と会える数少ない日。

だけど…

『やっぱり来てないか…』

母は体が弱くてあまり出歩けない。

父は特殊で…、まぁ忙しい人なのだ。
きっとあたしに素質があったのは、父のおかげなのだろう。

両親に会えない寂しさと、実はあの一大イベントが大掃除だと知って、あたしの元気はどこかへ飛んでいってしまった。

『それじゃぁみんな、大掃除の始まりよ』

先生の声を合図に、大勢の魔女が、空へ飛び出していく。

あたしもみんなに続いて、快晴の空へ飛び出した。





何もない空を、箒の先で掃く。

見えない道はいたるところにあるので、そこら中を、同じようにみんなが飛んでいる。

これなら、今日の夜も綺麗な星空が見えるだろう。

地上には人影がたくさんあった。

子供達はあたし達を見て、夢を見ているのだろうか?
幼い自分がそうだったように。

そして、大人達は夢を思い出しているのだろうか?

『…きっとそうよね』

そう思うと、何だか元気が出てきた!

例え大掃除でも、誰かが喜んでくれるなら。

『頑張ろう!』

そう思い、あたしはスピードを上げ

『危なっ!』

目の前の鳥にぶつかりそうになり

『あっ…』

慌ててよけて

『やばい…』

見えない道から、外れた。



体は速度を早めながら落ちる。

あたしは比較的下の方の道を担当していた。
近くに他の道は無い。

『こういうときは、確か…』

箒に緊急用の魔力がある。

それを使えば少しぐらいなら自由に飛べたはず。

『あ〜っと、どうやるんだっけ』

落ち着け。
いつもはできるのに。



体は空気を切り裂きながら落ちる。
その風圧と落下による無重力感が、あたしを焦らせる。

『えっと〜、あれ』

駄目だ。
頭が混乱して、今なら簡単な足算ですらできそうにない。

『ぁぁぁ、そんなこと考えてる場合じゃ』

体はさらに速度を増す。

どさっ





『…え?』

あたしは落ちた。
何か柔らかい物の上に。

『ふぅ。なんとか間に合ったか』

あたしはある乗り物に乗っていた。

見えない道を使わずに空を飛ぶそれを、あたしは知っていた。

『遅くなった。母さんのところに寄って来たから』

その乗り物の操縦者があたしを見る。

間違えるはずもない。

『お父さん!』

あたしはそう叫んで、父に抱き付いた!





あの後あたしは、先生と父さんからのお説教をくらった。

そして、父さんは母さんからの手紙をあたしに渡して、急いで帰っていった。
相変わらず忙しいらしい。

母さんの手紙には、会いに行けなくてごめんと書いてあった。

とりあえず、返事は書かない。

だって、あたしは謹慎をくらったんだもの!

そう、自宅謹慎をね!

母さんに会いに帰ろう!

久し振りの親孝行をしに。

そして一緒に見るんだ!

わたしが掃除して綺麗に見えるようになった星空を!

父さんもどこかで見てるだろう、満点の星空を!



さぁ!
急いで帰らなくっちゃ!




『あとがき』

みんなが予想もつかないような設定を、
と、思い考えた作品です。

いい感じに短くまとまったので良かった!

どこまで説明文を入れるかのさじ加減が難しいですね。

一言感想もらえるとうれしく思います。

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