進め!環境調査隊(仮)


進め!環境調査隊(仮)
一日目


   雨野は上司と電話中

雨野「だから、さっきから何度も言ってるでしょう!?」
上司『そんなことが信じられるか!いきなり、明日は歴史的集中豪雨になるので、避難命令を出して下さい、などど言いおって』
雨野「本当なんだから仕方ないでしょう」
上司『じゃぁ、原因は何だ?』
雨野「不明です」
上司『話にならん!第一、気象庁は何も言っておらん。明日は普通の雨だ』
雨野「気象庁と私と、どっちを信じるんですか?」
上司『気象庁だ!自分達の立場を認識しろ』

   ガチャッ ツー ツー

雨野「な、な、なんなのよ〜も〜!」
水野「言ったじゃないですか〜どうせ信じてもらえないって〜」
雨野「いくら私達が去年新設されたばかりの『環境省環境災害調査委員会』、略して『環境調査隊』だからって…、この扱いはひどいと思わない!?」
水野「環境破壊等が原因によって起こる災害の被害を予測、未然に防ぐためにできたのが、この『環境調査隊』ですけど、その本質は建前だけ、委員二名に、満足な予算も与えられない。上の人たちは、僕達に何も期待してませんからね〜」
雨野「まったく〜、この天才を何だと思ってるわけ!」
水野「先輩」
雨野「あんたには聞いてな〜い」

   雨野に一撃くらい、どこかに吹き飛ぶ水野(注 室内です)

水野「うわぁぁぁっ」
雨野「はぁ〜どうしよう…。私の言うことを聞かなかったばっかりに、あのハゲ、じゃなかった、あの上司が失脚するのはいいとして、そのせいで被害をこうむるたくさんの人たちが不憫でたまらないわ…」
水野「いたたたた…」
雨野「そうだわ!こんな時は神山さんに電話しましょう!」
水野「神山さんって、誰ですか?」
雨野「防衛庁の偉い人よ!あの人に言っておけば、自衛隊がスムーズに動けるよう準備してくれるはず」
水野「へ〜、先輩、そんな偉い人と知り合いだったんですね」
雨野「まぁね」

   ジ〜コ ジ〜コ(黒電話効果音)

雨野「うぅ…力が抜ける…」
水野「予算なくて、黒電話ですもんね」
雨野「くっそ〜、明日になったら見とれよ〜あのハ、あ、もしもし〜、神山さんですか?」
神山『おぉ、恵嬢ちゃんか!』
雨野「も〜、その呼び方やめて下さいよ〜。私だってもう大人なんですからね」
神山『すまんすまん。それで、今日は何の用なんだね?』
雨野「そうでした。実は明日、かくかくしかじか」
神山『まるまるうまうまじゃな』
水野「お約束ですね」
神山『にわかには信じられん話じゃな』
雨野「本当なんです!信じてください」
神山『う〜む…、わかった!準備だけはしておこう!』
雨野「ありがとうございます!」
神山『な〜に、これぐらいおやすいごようよ!それに、明日になれば、わしが君にお礼を言わなければいけなくなるかもしれないからのぅ』
雨野「お礼だなんてそんな…。私は『仕事』をしてるだけですから」
神山『ふふっ、仕事、か…。それじゃ、わしも仕事を始めるよ!では』
雨野「はい。よろしくお願いします!」

   ガチャッ ツ〜 ツ〜

雨野「ふぅ…。やっぱ神山さんは、うちの上司より頼りになるわね〜」
水野「これからどうします?」
雨野「そうねぇ…、ちょっと早いけど帰っていいわよ!やることないし」
水野「は〜い!そういえば先輩、神山さんて何歳なんですか?」
雨野「神山さん?確か、今52歳だけど」
水野「へ〜。先輩がオジコンだったなんて知らなかったな〜」
雨野「は?何?」
水野「え?だからオジコン」
雨野「おじこん?何それ?」 水野「オジサンコンプレックス、略してオジコン!」
雨野「誰がオジコンじゃ〜!」

   再び一撃。吹き飛ぶ水野。ここは室内です。

水野「だって先輩…、神山さん、52歳なんでしょ…」
雨野「あの人は私のお父さんの知り合いなの!別にやましい関係じゃないんだから!」
水野「なぁ〜んだ、そうだったんですか〜!僕はてっきり、若い男には興味がないかと」
雨野「人が聞いたら誤解するようなこと言わないで!」
水野「あははっ、じゃ、僕、帰りま〜す」
雨野「はいはい、さようなら」
水野「あ、そうだ!先輩」
雨野「なに?」
水野「明日は早めに来ますんで、起きてて下さいよ」
雨野「はいはい、わかりました〜」
水野「それじゃ、お疲れ様でした〜!」
雨野「は〜い、お疲れ〜!」

   ドアが開き、閉まる音

雨野「は〜あ〜…。こんなはずじゃなかったんだけど…。新設された委員会にぴったりだからって喜んでたら、実際は国民の目を欺くための形だけの委員会だし。おまけに予算は雀の涙。マンションを用意するって言うから来てみれば、事務所と兼用だし…。は〜あ〜…、明日か…。予報が外れても、いいんだけどなぁ…」
二日目
午前?


   チュンチュン チュンチュン

雨野「う〜ん…、鳥の声が聞こえる…。今日は晴れね〜ムニャムニャ………。って晴れ!?」

勢いよく起きてカーテンを空ける。

雨野「あ…、雨…?おかしいな〜、じゃ何で鳥の声が…」
水野「それは先輩の目覚ましの音じゃないですか〜」
雨野「み!?み、みみ…!」
水野「はい?僕の耳になにかついてます?」
雨野「何で水野君がここにいるのよ〜!」
水野「はい!それはですね〜!僕が今日いつもより早く来たら、見事にこの部屋のドアが閉まっていて〜」
雨野「(off)あちゃ〜そういえばそうだった〜」
水野「そこで僕は冷静に、こんなこともあろうかと作っておいた合鍵でドアを開け」
雨野「あ、合鍵〜!」
水野「そうですよ。やっぱり、備えあれば憂いなしですよね!」
雨野「備えあればってあんた〜」
水野「それより先輩、いくら暖かくなったからってそんな格好で寝てるのはまずいんじゃないんですか〜?」
雨野「へ…?」
水野「朝方は急に冷え込んだりするんですから、風邪ひいても知りませんよ〜」
雨野「でっ、ででっ、出てけ〜〜〜!」

またもや吹き飛ばされる水野。ほんとに部屋の外へと追い出される。

雨野「はぁ、はぁ、まったく!デリカシーのない男なんだから…。あ、これ…もしかして朝ご飯?作っていてくれたんだ…。そういえば、元はといえば私が水野君が早く来ることを忘れてたのがいけないんだっけ…。悪いこと、しちゃったかな…」

   十分経過。ドアの開く音。

雨野「水野君、もう入っていいわよ」
水野「あ、良かった〜!実は先輩のために朝ご飯を…、って」
雨野「これのことでしょ?」
水野「気付いたんですね」
雨野「水野君、私を見くびってない?私は天才なのよ!」
水野「そうでした」
雨野「はい、コーヒー」
水野「え?どうしたんですか、珍しい」
雨野「の、飲もうと思ったら、ちょっと作りすぎちゃっただけよ!」
水野「あ、そうですか。僕はてっきり」
雨野「ち、違うのよ!朝ご飯のお礼とか、水野君が来ることを忘れたお詫びとかじゃないのよ!」
水野「いえ〜、てっきり賞味期限でも切れてたのかと思って」
雨野「へ…?」
水野「じゃ、安心だ!いただきま〜す!」
雨野「しょうみ…、きげん…ね…」
水野「熱っ!あっついな〜このコーヒー」
雨野「水野君の」
水野「はい?」
雨野「ぶぁかぁ〜!」

   一撃でフローリングの床に沈む水野。合掌。



水野「ハックション!うぅ〜、さすがに雨に濡れると寒い〜。ったくもう、先輩も前もって買い物すましておけばいいのに…、よいしょっと!たっだいま〜!先輩、買ってきましたよ〜!せんぱ〜い?…あれ、いない…?おっかしいな〜、どこいったんだろう?もうすぐ雨が強くなるから、早く避難しないといけないのに…」


雨野「も〜う電話じゃらちがあかないわ!こうなったら直接乗り込んで直談判するしか!って行ってみたら、見事に門前払いとはやってくれるわね、この天才を相手に!は〜ぁ…、もう大人しく避難するしかないわね…。ただいま〜…、水野君、準備終わってる〜?…水野く〜ん?………あれ、どこ行ったんだろ?げ、雨が強くなってきた!早く避難しないといけないけど…、う〜ん、水野君だって子供じゃないんだし、大丈夫よね!よっと。うっわ〜、結構強くなってきた!急がなきゃ!」


大佐「長官!政府から正式に出動要請がきました!」
神山「わかった!準備はできてるだろうな?」
大佐「もちろんです!いつでも出動できます!」
神山「よし!早速出動じゃ!水位が一メートルを超えているところもあるから、二次災害に十分注意するように!」

   プルルルッ プルルルッ ピッ

神山「はいもしもし。おぉ、恵嬢ちゃんか!どうしたんだね?」
雨野『…いんです』
神山「えっ、なんだって?」
雨野『いないんです。水野君が…』
神山「水野君というと…、君の助手の?」
雨野『私が避難場所にきて二時間も経つのに…、水野君だって、避難場所は知ってるはずなのに…。どこにも、いないんです』
神山「まぁ落ち着きたまえ。そんなに心配することはないさ!彼だって、もう大人なんじゃろ?」
雨野『え、えぇ…。そうですね…』
神山「わし達もこれから出動する!安心して待っていたまえ!」
雨野『はい…。取り乱して、すいません』
神山「いや、なに。それじゃ!」

   プッ ツー ツー

神山「ふぅ…。何事もなければよいが…。よし、出動じゃ!一人でも多くの人を助けるため、全力を尽くすぞ!」
大佐「はっ!」



二日目
午後?


ラジオ『昨夜未明から降り出した雨は、午後一時現在で一時間に百ミリを超える激しい雨となり、水位は五十センチ、高いところでは一メートルを越えております。これを受けて、政府は自衛隊の出動命令を出し、現在、自衛隊が救出活動を開始しました。また、道路などに溜まった水は傾斜の低いほうに流れており、無闇に外に出ますと流される恐れがあります。避難が困難だと思った方は、無理に出歩かずに救助を待ちましょう』


雨野「はぁ〜、予想以上に強くなってきたわね。水野君、大丈夫かしら…。ま、まぁ、建物の中にいれば安全なんだから、きっと大丈夫よね!それより、予測を立て直さなくちゃ!え〜と…、現在のデータを打ち込んで、と………」


神山「グズグズするなよ!一分一秒が人の生死を分けるんだ!…ふぅ、この雨、一体どこまで強くなるんだ…」
大佐「長官!大変です!」
神山「何だ!?」
大佐「北区で土砂崩れにより、民家二棟が倒壊、逃げ遅れた住民がいるとのことです!」
神山「やはりきたか…。すぐにD班を向かわせろ!」
大佐「はっ!」
神山「土砂崩れ、か…。この雨の降り方だと、それだけですみそうにないな…。いいか、何度も言うが、全員、二次災害には注意しろよ!」
大佐「長官!」
神山「今度は何だ!?」
大佐「南区で、小規模なビルが倒壊…。原因は激しい流れによるものと思われます」
神山「なん、だと…。むぅ…、すぐにC班とG班を向かわせろ!」
大佐「わかりました…!」
神山「ついに、ビルの中ですら安全ではなくなったか…。本当に、いつになっても人間は自然にはかてんな」


ラジオ『ただ今入ったニュースによりますと、南区にあるビルの一つが急流により倒壊したそうです。中には何名か残っていたとの情報もあり、その安否が心配されます。このビルは前々から手抜き工事の疑惑が上がっており、これによってさらに疑惑の追及が―』
雨野「嘘…。ビルが、倒壊って…、そんな!それじゃぁ、安全なところなんて一つもないじゃない…。水野君…、いったいどこ行ったのよ…。ぐすっ…、あれ、おかしいな…。前がよく見えない。もう!水野君の、馬鹿…!」
水野「いきなり馬鹿はひどいんじゃないですか〜」
雨野「………へ?」
水野「や〜っと見つけた!も〜う、どこ行ってたんですか先輩!」
雨野「どこって…、み、水野君こそどこ行ってたのよ!」
水野「僕は、先輩を探してたんですよ!」
雨野「探してた、って、この雨の中!?流されたらどうするつもりだったのよ!?」
水野「あれ、言ってませんでしたっけ?」
雨野「何を?」
水野「僕、高校の頃は水泳部だったんですよ〜!あんな流れなんかスチャラカポンポンですよ!」
雨野「………水野君。それ、絶対使うとこ間違ってる…!」
水野「そうですか?あれ〜、先輩」
雨野「な、何よぅ?」
水野「泣いてたんですか?」
雨野「えっ!?ち、違うわよ!こ、これは…、ちょっとコンタクトがずれて〜」
水野「先輩、コンタクトしてませんよね」
雨野「え〜、と…。ちょっとあくびが〜」
水野「昨日から今日にかけて、あんなにたっぷり寝たのに?」
雨野「う…、あ〜…。め、目にゴミが入ったのよ〜!」
水野「あぁ〜、それなら納得!」
雨野「がく〜!あほくさ…」
水野「それより先輩!ほんとにどこ行ってたんですか?」
雨野「どこって…、電話じゃラチがあかないから、直談判をしにあのハ、っと、あの上司のところに」
水野「ちゃんと言っといてくださいよ〜!無茶苦茶心配したんですから〜」 雨野「何言ってんの!ちゃんと書き置きを残して………。あ〜〜〜〜〜っ!!」
水野「わわっ!何ですか…?」
雨野「あんまり急いでたから…、書き置きするの、忘れてた〜」
水野「先輩〜」
雨野「ご、ごめん!!おわびに、今度何でもするから!」
水野「ほんとですか!?」
雨野「え…、えぇ、ほんとよ…!」
水野「やった〜!じゃ〜今度〜」
雨野「じゃぁ…、今度…?」
水野「おごらせてください!」
雨野「…はぁ??」
水野「だって、いっつも先輩がお金出すじゃないですか〜!」
雨野「そりゃぁ、年上だからね」
水野「でもでも、世間一般では、男がおごるのが当たり前なんですよ!」
雨野「まぁ、そうかもね…」
水野「だから、おごらせてください!」
雨野「ま、まぁ、そんなのでよければ…」
水野「やった〜!絶対ですよ、絶対!」
雨野「はいはい!それより、数値打ち込むの手伝って!予測立てるわよ!」
水野「はい!」


神山「よ〜し、ゆっくり運べよ!」

プルルルッ プルルルッ ピッ

神山「はい、もしもし!」
雨野『あ、神山さん!私です!実は、いい知らせがあるんです』
神山「ほぅ!もしかして、もうすぐ雨が止むとかかね?」
雨野『え、あ、そうです!正確には夕方ぐらいには。よくわかりましたね』
神山「なに、勘じゃよ、勘!なんとなく小降りになってきたような気がしたんでな」
雨野『へぇ〜、年の功ですか』
神山「はっはっは!ところで、君の助手は帰ってきたようじゃな!」
雨野『えっ、あ、はい!相変わらずのマイペースです!』
神山「良かった良かった!じゃ、わし達は忙しいからこれで。嬉しいニュースをありがとう」
雨野『頑張ってください!』

   プッ ツー ツー

神山「さて…、大佐!」
大佐「はっ!」
神山「夕方には雨は止むそうじゃ!皆に伝えてやれ」
大佐「本当ですか!わかりました!しかし、その情報は一体どこから…?」
神山「ふふっ、まだ若い天使からじゃよ」



二日目
夕方?


ラジオ『昨夜から降り始めた雨は、午後二時頃をピークに徐々に弱まり始め、今日夕方には止むもようです。なお、今回の豪雨を、去年新設された、環境省環境災害調査委員会、が予測していたとの声も上がっており、これから議論が―』
水野「雨、止みましたね!」
雨野「午後五時二十三分、ほぼ予想通りね。さすが」
水野「天才!でしょ?」
雨野「そう!よくわかってるじゃな〜い」
水野「先輩、これからどうするんですか?」
雨野「う〜ん、そうだなぁ…、とりあえず、家に帰ってゆっくり休もうかな!」
水野「家、って〜、あのビルですか?」
雨野「当たり前じゃない!他にどこがあるのよ!」
水野「あのビル、流されちゃいましたよ」
雨野「はぁ!?…え、あ〜、えぇっ!!」
水野「だから〜、流されたんですって!泳いでるときに見ましたから」
雨野「そ、そんなぁ〜…、それじゃぁ私は、これからどうしていけばいいわけ〜!」
水野「そんなに落ち込まないでください!今度おごりますから!」
雨野「嬉しくな〜い!あ〜んも〜!一難去ってまたいちな〜ん!!」



                         ☆終わり☆


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