連続 ルーズリーフ二枚くらい小説

激烈家族 第2話〜小さな街の小さな悲劇の物語〜






こんちには。家族が原因で栄養失調気味の一郎です。 前回、わけもわからず悲惨なことになり、心と体が悲鳴をあげる中、僕自身も悲鳴をあげました。 それでは続きをどうぞ! 僕の知らないところでそれは決められていた。 家族の法則(略して家法)その1。人の物を盗るべからず。 ・・・今回、父が怒りを露にした理由がこれ。一つ言いたい。 僕は人の物を盗ろうとは思っていなかった。しかもあれは取るという漢字で盗ったつもりはない。 そもそも、あのたくあんは父の物だったのか?と、小一時間問い詰めたい。 それはさておき、母が持っていたプリクラ手帳の恐怖から逃れるためにはどうしたらいいのか? このままではなにをされるかわかったものではない! ひとしきり暴れた暴れた父が何かを取りに部屋から出て行った次の瞬間。僕はすでに部屋の外へ飛び出していた。 『ここにいたら殺されるっ』 僕は母に父を落ち着かせるようにいってもらうため、後を追う。しかし、二人ともすでに買い物へ出かけたあとであった。 「はぁ、はぁ、はぁ」 いつもの通学路を走る!なぜならその先に商店街があるからだ。 「はぁ、はぁ、・・・はぁ・・・はぁ」 もうだめだ。僕は橋の上で力尽きた。 恐る恐る後ろを振り返るが追って来ている様子はない。 肩で息をした。身体に感覚がなくなりつつあったそのとき。 「春の日に〜。小川を眺めて、どざえもん。流れ着く先刑務所の中〜」 突如日陰が出来たと思うが先か。大声で叫ぶ父の姿があった。 「あ・・・ああ・・・」 パラシュートを使っておりてくるとは、意味がわからない。 登場は派手だがこんな街中で、落下地点を選んで降りることができるのは僕の父だけだろう。 どうやって空から落ちてきたのかについてはもう、なにも言うまい。 「悲しかな。この唄はわしとおまえの未来を予言しているのだ」 なにを突然言い出すんだ?この人は・・・とはもう思わなくなっていた。 長い付き合いである。だからこそ、この唄の意味もわかった。 ・・・僕をコロス=どざえもん。そして父は刑務所の中って内容だと思う。 冗談じゃない。僕は殺されるようなことはしていない!・・・と思う。それに、意味がわからない。 父はなぜそこまでして僕を殺さなくてはいけない。 なにがそこまで父を駆り立てるのか、僕には知る由もなかった。 ・・・泣いた。泣きながら走った。 父が地上に降り立つ前に全力で・・・! 商店街に逃げ込んだ僕は母を捜してさまよう。 ――いた! 意外にあっけなく、八百屋の前で大根とにらめっこをしていた。 「!?」 声をかけようと思ったが、留まる。 「・・・あの二人、なにしてるんだ?」 僕が声をかけなかったのには理由がある。 僕の目の前でいきなり母は果物ナイフを取り出したのだから。 しかもそれで大根に傷を付け始める。 『ちょっと待ってくれよ、母さん!』みたいな心境だ。 大根にはかろうじて『へのへのもへじ』だとわかる傷が付けられた・・・。 「いったいなにして・・・」と、僕がつぶやくと、 「あの〜・・・」 僕はドキリとした。見つかったのかと思ったのだ。・・・見つかっても別にいいはずなのにだ。 「店長さん?この大根にだけへのへのもへじが書かれたラクガキがあるのですが・・・これはいったい、なんなのでしょうか?」 ラクガキじゃなくて傷だろ。と思いながら白々しい嘘を聞き流した。 「お母さん・・・こっちにも・・・」 妹もいたみたいだ。 「まぁたいへん!このかぼちゃは使い物になりませんわ。・・・ですわよね?」 大変なことが起きた。妹も母と同じことをしていたみたいだ。 不運なことに―― 「このリンゴもナスもピーマンも全部、売り物になりませんわ」 ・・・不運なことに、僕の顔が刻まれていた。・・・しかも、やけにリアルな僕の顔だった。 「処分にお困りになられますならば、私たちが責任を持って処理いたしますわ」 ――そうか。だから僕がこの通りを歩くとみんなして、嫌そうな顔をするのか。15年間気付けなかった自分への怒りと恵まれた才能をもてあます妹への悲しみで胸がいっぱいになった。 「奥さん!困りますよ。毎日毎日そんなこと事されたら商売あがったりですよ!」 八百屋の店長が母に言う。 毎日やっている丘と思っていると母が、 「大丈夫。あなたにはあなたのやり方があるわ。もっと自信をもちなさい」 なぜか励まされていた。 「小さなことに目をつむり、大儀をなすことがあなたのこれからの課題よ。そう、大きな大人になりなさい」 あっけに撮られていた店長は、はっと気付くと、反論を試みる。 「おじさん・・・果物ナイフ・・・意外と・・・スパスパ・・・切れるもの。私・・・驚いちゃいました・・・」 と、全然驚いている様子はないが、店長さんの首もとでリンゴの皮をひたすらむいている妹。 「今日は・・・調子が悪い・・・手元が・・・くるいそう・・・」 「ヒッ・・・!」 恐喝じゃないのかと心で思ってみたりする。 僕は振り返り、何事もなかったかのように家へと、 「ヒッ・・・!」 帰れなかった。 「忘れ物だぜ」 父がニコヤカにプリクラ手帳を見せる。 「おいた帳・・・でしたっけ?」 さらに深い笑みを浮かべ、 「物覚えがいいのだな。めいいっぱい褒めてやろう」 父の名は山田太郎。昔のあだ名はハイエナ。 エピローグ 「お帰りなさい・・・遅かった・・・ね・・・?」 妹が家の前で帰りを待っていてくれたみたいだ。 「早く・・・ご飯冷めちゃう・・・お父さん・・・いこ・・・」 父を・・・だが。 「あ・・・いっちゃん。探してたんだよ・・・」 妹の林檎は僕のことをいっちゃんと呼ぶ。 「・・・お母さんが・・・」 妹の瞳がキラリと光る。 「お父さん・・・はやく・・・」 僕のことはほったらかしだ。いつもそうだ。 そして思う。妹は僕に恋をしているってことに。 恋は盲目っていうだろ。だからさ。・・・意味が違っていることに僕は気付けない。 そして、これから食うものが自分の顔が何度も刻まれてできた物ってことにも抵抗がある。 そして、いつも家に食材がないのはたくさんもらって来ているようにみえても、実は、僕の顔が何度も刻まれて実がなくなっている状態だったからだと気付いた。 僕が悪いのか?そりゃないだろ? 高校進学を控えた時期に家族の本性を垣間見ることのできた貴重な一日だった。




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