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父が食卓を壊し、妹が常識を砕き、母はそれを見て微笑する。 みなさん、いかがお過ごしでしょうか。一郎です。 高校二年生になった僕にとって、人生の分岐点とも言える一大イベント、それは―― 「一郎君大丈夫?」 「平気か?一郎」 「男らしいんだね、見直しちゃった」 クラスメイトが次々と声をかけてくれる。 「大丈夫に見えるヤツはおめでたいやつだよ」 氷点下の大地がつらい。 「・・・誰でもいいから服を貸してください・・・」 僕は今、北海道にきている。 ――ふんどし一枚で。 「脱いだら寒いしなぁ」 「カゼ、引いちゃうし――」 「僕は死にかけているんですけど・・・」 この状況でそんなことは言わないでほしい。たとえ冗談でも、である。 ・・・父に話したのが間違いだった。 そう、あの時話したことが――。 「北の大地に修行に行くのか。そうか・・・」 「いや、あの、お父さん。修学旅行・・・」 「修・がく・りょ・行!修行だ。言葉の意味を知れ」 「父さんが言ったら、当たっているものも違って聞こえる・・・」 思わず口に出してしまったが聞こえなかったらしい。 「・・・よし。日本では昔から修行といえばふんどしだ。明日はそれで修行にいけ」 「父さん・・・」 さすがにそれだけは嫌なので、反論を試みる。 「いいなぁ。いっちゃんは・・・」 いい!?なにが?と思うが先か、 「ははは。じゃあ、林檎にはウエディングドレスで沖縄に行かせてあげるよ」 「パパと一緒に?」 「ああ。約束だよ」 「パパだ~い好き!」 ・・・まずいだろ。 「なぁ、母さんもなにか・・・」いってくれよ。と言いたかった。 僕の後ろでなにか、いやこれは包丁だ。もちろん憶測の粋をでないのだが・・・。 「か、母さん?」 僕の首に鉄の物質が沈んでゆく―― ・・・結局。恥ずかしいながらもふんどし一丁で学校へ行き、笑われて今に至る。 「一郎!せっかく雪山にきたんだ一緒にすべろうぜ!」 カゼで気絶しそうだとか、転んだからそのまま大地の肥料になりそうだとかじゃない。その右手のカメラは一体なんだ!・・・と言いたい。 「どこも地獄だ・・・」 誰にともなく呟いた。 温かい。ここはまるで――。 「天国だ」 「ホテルに入っただけで幸せそうな顔するんだな。とりあえずおめでとう」 人は極限の状態から生還した時、呆れ顔のまま皮肉の意味を含まれたねぎらいの言葉をきても、人の悪意も善意として受け入れられることを知った。 「ありがとう。おまえって結構いいやつだったんだな」 僕の人生で生まれて初めて人に感謝した瞬間だった。 「山田~山田はどこだ~!?」 クラス別に並んだ先頭の方で専制が大きく手を振る。 「なんですか?」 素直に返答する。 「山田一郎様と書かれた荷物が送られてきたらしい。部屋に運んでおいたからあとでたしかめるように」 「あ、はい。わかりました・・・?」 一体何が送られてきたのだろうか?身に覚えがないし親が僕にわざわざ物を送ってくるなんて信じられない。 「食い物だぜ、食い物!」 「いや、俺は一郎の服だと思うけどなぁ!」 ぷっ。と誰かが吹いたのち、一斉に笑った。僕だけを残して。 それが本当なら、素直にうれしいのだが・・・ 畳6畳間に人間が僕を含めて12人。暑苦しいとはこのことだ。 「早くあけちまおうゼ!」 「なにが出るかな、何が出るかな~」 こいつらは持ち主の許可もとらずに・・・ま、いいけどさ。 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・」 一瞬固まったかと思うと、何事もなかったかのように蓋を閉じ、そのままぞろぞろと帰ってゆく。 「?どうしたの」 野次馬達がどんどん引いていく。 「俺たちはなにもみていない・・・」 「オレたちはおまえの友達でも知り合いでもない・・・」 「ただの・・・」 「通りすがりの高校生だ」 なにをみたんだ!?僕は胸騒ぎを覚えつつ、ゆっくりと蓋を開ける。 「・・・・・・・・・・・・」 なんだ、これは・・・? 1m四方の箱の中には、よくわからないものが入っていた。 「・・・・・・・・・」 もっとよくみてみる。服がいっぱい入っている。でもなにかおかしい。 あれ?この黒いものはなんだろうか。・・・髪か? 僕の身体に緊張が走る。 「・・・・・・」 髪を引っ張ってみる。 「痛てっ!」 しゃべった!? 「・・・」 涙が溢れた。 「いきなり友達なくすとはなさけないな一郎」 「父さん。・・・もう人の形、してないよ」 生もの注意と貼られたステッカーはそのままの意味。 両親からの荷物ではなく、両親が入った荷物。 そして――。 「林檎まで・・・」 みんなの関節がありえない方向へ曲がっていたことをここに記す。 ☆あとがき☆ とりあえずは明るいBADENDで終わらせました。 ここまで読んでくださってありがとうございます。では次の作品で出会えることを祈りつつ――。