手紙と俺と暑い夏




序章
『はじめはあなたに対して感情なんてものはありませんでした。私があなたに興味を抱いたのはいつのことからでしょうか?』




第1章




中学3年。受験の夏。
俺たちサッカー部は地区で優勝した。もちろん、俺の力だけではない。

「よう。なにしてんだよ」

こいつ――秀樹がいてくれて俺は地区で優勝できたんだと思う。

「いや〜。今日が終わったら、明日から受験勉強しなくちゃいけないんだと思ってさ」

俺たちはグラウンド――試合してきたグラウンドでくつろいでいた。

「なんだよ、試合終わっていきなり腑抜けになっちまったのか?」
「まぁいいじゃねーか!明日から学校がガラリと姿を変えるんだからよ」

清々しかったのはたしかだ。そして、明日から教室は俺の中では空気がかわるのだろう。
 そう思っていた。

「夏休みなんだしよ〜どっか遊びにいこうぜ!」
「おっ。それいいな!どこいく〜?」

そうだ。まだ夏は終わっていないのだ。






第2章10月中旬





文化祭や運動会。みんな楽しそうに笑っている。
もちろん俺も楽しんだ。
俺たちの組は演劇だったが最後で流行の曲をみんなで歌ったあの場面はなぜか涙が出た。


そして11月が訪れた

「こら〜淳(あつし)!ちゃんと掃除手伝いなさいよ!」
「わ〜ってるって!なんで俺にだけいうんだよ!」

昼休み。メシ食った俺は昼休みにサッカーする人が少なかったのでそのまま寝ていた。

「・・・ったく。うるさい目覚ましだ」

幼馴染みのリン子が俺にちょっかいを出してくるのはいつものことだ。
仕方ない。一番後ろの廊下側の席。俺は机を後ろに引きずる。

「いま起きたのか?よく寝れるな」

親友の秀樹がほうきを取りに近くにきていたようだ。

「ん?なにか落ちたぞ」

それは俺の机から落ちたらしい。

「・・・サンキュ」と奪い取るようにして自分のポケットに手紙を押し込んだ。
「もっと、大事に扱えよ」

秀樹が苦笑しながら俺をみている。

「うるせえ!さっさとどっかいけよ!」

自分でも顔が赤くなるのが分かる。さっき落ちたのは生まれてはじめてのラブレターっていうやつだ。・・・たぶん。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

こういう時は先手必勝にかぎる。

「さぁ!時間は待ってくれないぞ!!いまこそみんなで協力するときだ!」

そんでもってしらじらしく俺はこう言う。

「秀樹!ひさしぶりに本気だしてみようぜ!」
「・・・こんなことに本気だすのかよ・・」

やれやれといったしぐさでしばらく見詰め合うが先に秀樹が机を運びはじめる。
ふぅ。――やれやれとはこういう時の台詞だな。
5時間目の時間が刻々と近づいていた。






第3章






『最初はただのクラスメートでした、でもいつからか、私の瞳はあなただけを追う日々を――』

「なにしてるの?」
「うわ!!ななななんだよ!!」

放課後の部室の中で、猫の毛が逆立つみたいに俺は驚いた。

「なんだ。リン子かよ」
「れいこ!玲子ちゃんっていってるでしょうが!」

これだから女はイヤなんだ。

「そんなことよりはこの際どうでもいいんだけども・・」

ふと、回りを見回して俺は言う。

「ここ。サッカー部室だぞ」
「そうね」

なんだ?こいつは。

「部外者は帰れよ」
「なんで?」
「なんでって・・・なんででもだよ!」

リン子は軽く歩いてからベンチに座るとこういった。

「その右手にもってるの・・・なに?」

――!しまった。

「・・・リン子はなんで部室に来たんだ?」
「淳の姿が見えたから」

すばやく手紙をポケットにしまいながら――

「不思議だ」
「ん?」

怪訝な面持ちで俺をみつめる。

「なにしに来たんだ?・・・ここへ」
「だから淳をみつけて」
「ホントにそれだけか?」

俺は直感でわかった。ラブレターはこいつ――リン子が俺宛に送ったものだ、と。
すると、リン子はいきなり俺のそでのボタンを弄くりまわし始めた。

「げ!取れるって!」

ちょっと乱暴に振りほどいくと、

「だって・・・淳がへんなこというから・・・」

と意外な一面をみせてくれた。

「・・・・・・」

よし。いうんだ。俺。

「あのさ。おまえ、俺のこと・・・好きだろ!?」

すっごく胸が高鳴り、うれしさと期待で破裂しそうになる。

「へ?・・・え?」

かわいそうに。事態がうまく飲み込めていないのだろう。

「俺にはわかっている。お前の気持ちも――」
「ちょっと・・・ねぇ!ちょっと!」
「リン子〜〜〜〜!!」

俺は勢いのままベンチへ突進!
ガララ・・・。

「・・・なにしてるんだ?」

夕日を背に秀樹がぽつり一言。
俺とリン子は抱き合う形でそこにいた。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

オマエ――

「・・・別に」

タイミング悪すぎ・・・






第4章






『臆病な私は屋上であなたを待つことで精一杯です。時間は放課後の6時です。私も部活で遅くなるかもしれませんが――』

「私の気持ちを伝えるのでもし、遅くても怒ってかえらないで欲しい。ふむふむ――」
俺は屋上で一人、ラブレターを読み返しながら待っていた。これから逢う彼女のことを。
どうせ時間になればリン子はやってくる。もし、りん子じゃない、別の人でも俺は満足だ。いたずらじゃないことを祈って。

俺は思いっきり拳を後ろに振った!ラジオ体操でもするかのように。

「ゴルァ!」と俺が力任せに振り回す。

ゴッ!!

俺の後ろにはいつのまにかに秀樹が立っていた。

「・・・いいパンチだ」

右頬を押さえながら満面の笑みで親指をビシ!っと立てている。

「さっさと帰れ、今日はおまえと遊んでいる暇は無いんだよ」

生まれて初めての彼女が中学卒業を前にできる。
なんて幸せに満ち溢れた瞬間なんだ。それをこいつは・・・

「目の前にいるだろうが」

・・・ん?
意味がわからない。なにをいっているんだ?

「手紙読んだんだろ?」と秀樹。
「・・・・・・」

嫌な予感がしてきた。手紙を握る手に湿り気が帯びる。

「もっと大事に扱えよ。がんばって書いたんだ」

その台詞、聞き覚えがある。たしか掃除の時間に――







 「ん?なにか落ちたぞ」

 それは俺の机から落ちたらしい。

 「・・・サンキュ」と奪い取るようにして自分のポケットに手紙を押し込んだ。
 「もっと、大事に扱えよ」

 秀樹が苦笑しながら俺をみている。








いつのまにかに手紙は握り潰され、額に汗が噴出していた。

「うせろ、おもしろくない冗談いってると怒るぞ」

俺はその時、どんな顔をしていたのだろうか?

「・・・まだ気づかないのか?」

・・・こんなドキドキは初めてだ。

「ぁ?」

やばい、死ねる。

「俺・・・おまえのこと好きなんだ!!」



エピローグ

親友のありえない告白からしばらく経った、3月中旬。
俺はいとこの家に転がりこむことにした。
はじめての高校生活。
新しい友達――そして、新しい恋の予感!!
俺のこと応援してくれるなら、高校生になった俺らを見ることができるかもな。END



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