成長し、切り捨てられてゆくパーツと億万分の一の固体である事実


子供の頃に戻りたいと 母も思ったことがあるのだろうか
あの人と結婚しなければよかったとか 学生に戻ってもっと勉強しておけばよかったなどと
後悔したことはあるのだろうか
私にとって 母は今までも母であり 母になる以前の母は見たことがないのだ
そのため 子供の頃があったなんて理解はできるが想像はできない
しかし 思い出を語るその顔は穏やかでいて 最近ではあまり見ることのできない笑顔なのだ
そこに 私だけが自由な選択を選ぶことができ 今を生きていたのではないのだと
確認できることに 私は少なからずの衝撃と喜びを得たのである

思えば私にもはしゃいだ記憶というものがあったかもしれない
宝石というものがどういうものかわからないが とてもみんなが羨ましがるようなものだということだけ知っていた私は
砂浜で拾ったピンクの貝殻を 宝物だと心は熱く それはきっと純粋で無垢な美しさがあったんだと思う
・・・今の私にはそのような心の宝石なんてものはなく ごみ収集所に集められた灰色の背景から使えるものはあるかと
喜びも悲しみも存在しない古びたビデオの住人のような日々を送っている

「昔はよかった」などと言ってしまいそうだがそれは間違いだった
あの時と今はそれほど変わっちゃいない
大きく変わってしまったことがあるとすれば それは私の考え方や行動理念であろう

今の私には地面に落ちた石をみて 変わった形をした石だなと持ち帰ることもなく
さらにいえばそれに気付くことさえできないだろう

だからこそ私は思うわけだ
「昔はよかったな」と

あんなものさえ美しく見えた当時の私は はじめての宝物として家に持って帰った
ありふれたものさえ、たった一つしかないかのように大事に大事に家に持ち帰るんだ

あの頃の感動はいったいどこへいってしまったんだろう

潮風が「僕の帽子」を奪って様子見している
「些細なことだ」
振り返り 車へ戻る 来た道を戻る どこまでも戻る
いまさら戻っても僕の帽子はもう見つかることはないだろう

大事なものが風化していく
錆びないものなんてあるのだろうか

人が本気で怒ってる姿を見ても、いまいち実感が沸かない時期というものがあった。
だが、けしてゲームなんかじゃないし、これは現実で、主役は一人だけではない、そんな世界だった。


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