たぬきさんSS〜第一話〜
第一話 出会い 僕の章 四月。 出会いの季節。 爽やかな風。 緑色に萌える木々。 桜の季節。 僕は今日からここ『稲荷大付属高校』の生徒になる。 高校生だ。 少し過保護気味な両親から離れて暮らしたいがために、この高校を目指して一年。 やっと僕の願いは叶った。 定員百二十名の中に入れたのは本当に奇跡だと思う。 猛勉強して良かった。 今日は入学式だ。 西洋風の門構え。豪華な建物。 歴史は浅いが趣がある。そんな校舎。 うーん、流石「私立」って感じだ。 少し前までお嬢様学校だったらしいけど、去年から共学になったらしい。 午前九時五十分。そろそろ入学式の準備が始まる時間だ。 今日は両親は来ていない。 来たいと言っていたけど、僕が断った。 今日から一人で暮らし始めるというのに、両親が来てしまったらこっちで暮らしかねない。 やれやれだ。 「はーい!新入生の方はこっちに集合してくださーい!」 女の先生の声が僕たちの集合を求めている。 僕はそちらの方に歩き出した。 入学式が終わって、自分のクラスを確認しに掲示板の前に向かう。 どうやら僕はA組らしい。 えっと、担任の先生は…っと… 田貫=カトリーヌ=涼子…? …ハーフなのかな?何か珍しい名前だ。 ってか、偽名くさいな、と少し笑う。 どんな先生なのかな。楽しみだ。 A組に着いた。 席順が書いてある紙が黒板に貼ってある。 えっと、僕は窓側の一番前の席みたいだ。 周りは…ものの見事に女の子ばっかりだ。流石、元お嬢様学校。 僕のクラスの男子は…僕を加えて三人…? いくらなんでも少なすぎ。 ホームルームが終わったら、他の二人に声かけてみよう。 なんて事を考えてたら、教室の扉がガラガラと音を立てた。 ざわついていた教室が急に静かになる。 カツカツと聞こえる靴の音。 教壇にスラリとスーツを着こなした、髪の長い、ないすばでぃーのおねぇさんが立った。 「みなさんおはよう!…あれ?こんにちはだっけ?まぁどっちでもいいや。はじめまして!私が今日から君たちの担任になる…」 きれいな黒板に豪快に音を立てて文字が書かれていく。 田・貫・=カ・ト・リ・ー・ヌ・=涼・子 カッとチョークが黒板をたたく音がする。 「たぬき=かとりーぬ=りょうこ、です。」 田貫先生はにこりと笑って、 「みなさん、これから一年間よろしくね!」 元気に挨拶をした。 その後、何の滞りもなくホームルームは進んでいった。 ぼけーっと、時間が過ぎるのを待つ。 「…こ!そこの君!」 先生に呼ばれてふと我に返る。 どうやら呼ばれたらしい。 「君、学級委員やる人いないみたいだから、やってもらえないかな?」 「はい?僕がですか?」 どうやらもう学級委員を決めるところまできていたらしい。 「そう、君。初日からぼけーっとしてたからね。って言うかもう決定だから。」 さらっととんでもないことを言う田貫先生。 「えー!それはないですよぉー!」 当然、抗議してみる。 「君がボケーっとしてたのが悪いでしょ?はい、君が悪い。決定!」 無茶苦茶な論理だ。 でも、僕がボケーっとしてたのも事実だし… どうせ今日から一人暮らしだし、いろいろ挑戦するためにやってみよう。 「わかりました。僕がやります。」 「よし!学級委員も決まったし、冊子を配ります。学級委員、早速仕事よ。手伝って。」 早速仕事のようだ。 冊子を手渡され、各列に配っていく。 「配り終わったわね、ご苦労さま。」 「じゃ、そろそろ解散にしますか。委員、号令。」 え?いきなり終わり? 「先生、この冊子の説明はいらないんですか?」 一応気にかかるので問いかけてみる。 「あぁー、説明ね…冊子に書いてあるとおり、この学校のルールについて書いてあるものです。」 「お家に帰ってからゆっくり読みなさい。ここで説明するのはめんどくさいわ。」 非常にわかりやすかった。 「はい、委員ごーれー。」 うわ、やる気ないよこの人。 抗議したところで変わらないだろうし、号令かけちゃお。 「きりーつ!れい!」 ざわざわと教室に活気が戻る。 さて、さっきの男子に声をかけてみよう。 そう思って、男子の席に近づいていこうとしたときに呼び止められた。 「委員ちょっと来なさい。」 先生が呼んでいる。というか腕、引っ張られてるんですけど? 結局、教室の外まで連れてこられた。 「…とと、なんですか、先生。」 当然、聞いてみる。 「委員、君が面倒見よさそうだから言うけど、いろいろ手伝ってくれない?」 どうやらお願いがあるらしい。 一応聞いてみる。 「なんですか?あくまで出来る範囲でしか聞きませんよ?」 「大丈夫、無理なことは言わないわ。」 出来ることらしいしやってみるかな。 「わかりました。やります。」 「あなた一人暮らしよね?」 変な事を聞かれる。 「そうですけど?」 「私、住む家がないからしばらく泊めて欲しいんだけど、良いわよね?」 「…へ?」 今すごいこと言わなかった?この人。 「何言ってるんですか先生?」 「だからぁ、しばらくの間泊めて欲しいのよ。住むとこないし。」 しゃがんで上目遣いで、甘えた声でこんなことを言う。 「まさか、野宿しろとは言わないわよね?」 「ぐ…」 非常に卑怯な台詞だと思う。 流石に女の人を野宿させるような思考はしていない。 「…仕方ないですね。良いですよ。」 結局折れた… 部屋も広いし余ってるってのもあったのが折れた理由でもあるけれど。 「これからよろしくね♪」 「はぁ…早く住むところ見つけてくださいね。」 どうなるんだろう。僕の高校生活… まだ昼の校舎での出来事。 こうして、田貫先生との奇妙な同居生活が始まった。
☆感想よろしくお願いします☆
【たぬきさん】
やっとで私の出番が回ってきたわね。
改めて自己紹介をさせていただきます。
『田貫=カトリーヌ=涼子』です。
みんなはもう新しい生活に慣れたかしら?
せっかくの新学期なんですもの。
若いんだから・・・恋に、青春に、どんどん励みなさい。
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